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11月2日

これは恋なんかじゃない。ただの憧れで嫉妬で尊敬だ。でも、添い遂げるに足る。

 「お前の自由を奪ってもいい。それが自由というものだ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……
 
 
 喜びと共に歩みたくて
 
――――ならば教えてやろう、僕等がお屋形様から与えられた至上命令を。
――――「人が紀元前から作り上げてきた科学と文明が、銀の雨と怪異によって支えられていたことが完全に確実に判明した暁には、
――――我等は、この世界そのものを否定し、『この宇宙』における地球を、いかなる手段を以ってしても破壊する。
――――そして、科学による文化文明が確かに歴史を築いたと信じられる次元に、転生する。」
――――諸共に消し去ってくれる!
――――貴様も、偽りの文明も、ヒトではなかったヒトも!この『ふざけた宇宙の』地球と共に!
――――砕けろ、この隕石で!
 
 「生まれながらの才覚というものは当然ありますけどね。」
 
 丘・敬次郎が手を止め、こちらを向いた。
 テーブルの上には分解されかかったオートマチック拳銃。
 
 「やはり、何だ。」
 
 次の言葉を探すように、丘はまたテーブルの上に手を伸ばす。
 ドライバーでネジを外すと、片目でパーツを眺めて歪みを探す。
 
 「積み重ねていない人間を、信頼したくはありません。」
 
 また銃の解体を始める。
 がしゃり、とパーツをテーブルの上に置き、彼は向き直った。
 
 「というか、あれですね。
  我慢がならないというか。自分と同じぐらいの苦労をしていない人間が自分と同じレベルの技術を持っているなんて、認めない。
  あはあ、まんま僕が憎む悪しき体育会系の思考回路ですねえ♪
  同属嫌悪とはよく言ったものだ。」
 
 完全に解体し終わったパーツを拾い、ブラシをかけ始める。
 
 「あー、同属嫌悪じゃないな。
  同属だから憎むんだ。
  自分が嫌っている物事が、実は自分自身だったと思った時に憎しみが生まれる。
  お屋形様の言う憎悪の論理とはまた違いますけど。」
 
 銃のパーツに油を差しながら、彼は笑った。
 
 「お屋形様の言う憎悪は、理屈なんです。
  あー、何だったかな。
  そうそう、人間には生まれた時から、理屈が通ると快感を得られる回路があるんですって。
  で、あれだ。不幸が起きた時も、自動的にそれを理屈で納得しようとするんですって。
  納得しさえすれば、すっきりするはずだから。納得できれば、不快感は消えるはずだから。
  例えば肉親が殺された時、その原因である仇を倒したいと思うのは、怒りじゃなくて、
  『不快感の原因を消し去ればすっきりできる』っていう本能的な反応なんだと。
  でも、本当はそんな訳ない。
  大事なのは、肉親が踏みにじられたという事実に対する悲しみなんであって、
  仇をどうしようが悲しみが軽減される訳がないんです。
  でも、人間は『仇を倒せば解決する』と思って『しまう』。そう思うことを止められない。
  理屈で納得することを知ってしまった人間特有の本能なんだそうです。」
 
 余った油を軽くふき取り、銃を組み立てていく。
 
 「……走るように生きてた頃、何も見えなかった。」
 
 え、という声に丘は口の端だけを上げて笑った。
 
 「いつも、いつも、笑いながら、ずっと……泣きたかった。」
 
 グリップを組み上げ、握りを確かめる。
 
 「ふふ♪」
 
 戸惑う相手をよそに、丘は銃を組みきった。
 照門から照星を覗き歪みが無いか確かめる。
 銃倉に弾薬を込めグリップに押し込む。
 グリップを握り。銃口を向け、引き金を引いた。
 
 「あ……。」
 「ふふ。」
 
 衝撃で転んだ鳥越・九(いちじく)は咄嗟に眉間を押さえる。
 肌が直径9mmに凹んだのを指の感触で知る。
 
 「ままならないものですよね。」
 「……。」
 
 ダメージによる緊急イグニッションで大事には至らなかったが、貫通しない分能力者には衝撃が全て伝わる。
 銃弾に跳ね上げられて痛む首を押さえながら、鳥越が丘を見つめる。
 そんな鳥越に丘はフルオートの射撃を見舞った。
 衝撃に押され鳥越の身体が為すすべなく倒れる。
 
 「本当に、ままならない♪」
 
 胸と腹に受けた痛みを手で押さえつつ、鳥越の目が彼を見上げる。
 丘が笑っているのは後ろ姿からでもわかった。
 この『ふざけた宇宙』に愛したいものを見つけてしまった。
 ジレンマに陥りけれど笑える丘。
 
 恋に溺れるでもなく使命のために見放すでもない丘の心情を、歳若い鳥越には測れずにいた。
 
 
 以上。」
 
10月27日

Monster Hunter

 「全ての病魔をお前に捧げても尚足りない。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 酔わない奴らを蹴り出せ
 
 「またダメだったんですか?」
 
 屋外にて、筧・小鳩が男の死体から衣服を剥ぎ取っていると、背後から声が聞こえた。
 振り返ると、筧・次郎がその様子を見下ろしていた。
 
 「いらしていたのですか。」
 「僕の仕事を奪うつもりだと聞いたので♪」
 「そんなつもりはございません。」
 
 小鳩は顔を戻すと、再び衣服を剥ぎ取り始めた。
 
 「軍人さん。」
 「はい。」
 
 小鳩は振り返りもせず、死体を裸に剥いた。
 
 「言う事を聞いてくれなかったと。」
 「家族を質(かた)にとったのですが、国賊の為には働けない、と。」
 「人でなしで素晴らしい軍人さんですねぇ。」
 「そんな目をしていたので。」
 「目ですか。」
 
 死体には、胸と頭に一箇所ずつ、弾痕に似た穴が開いていた。
 
 「その傷は水刃手裏剣ですか。棒手裏剣型ですね?」
 「……やはり、本気で従事してくれる方でなければ後々争いの種になりますので。」
 
 小鳩が苦無を取り出し、肉を剥ぎ取り始める。
 
 「家族には?」
 「何もしていません。」
 「結構。」
 
 肩の関節が露出する。半ばまで削いだ腕の肉を、小鳩は力任せに引き剥がした。
 
 「一家揃って行方不明となると、事件の価値が全然変わりますからな。」
 「なれど、最善ではなかったかもしれませぬ。
  家族ごと里に取り込めていれば、或いは。」
 「それが適わぬから、こんなザマになっているのでしょう?」
 「言い訳次第もございませぬ。」
 
 死体の右腕から瞬く間に肉が切り取られる。
 白い骨から肉をこそげとる小鳩の銀の手は、赤黒い血に染まっていた。
 
 「別のアプローチをした方が良いのではありませんか?」
 「なれど、効率の良い制圧方法を知る師は、必要です。
  わたくしも、主(あるじ)も、忍者ではなかったのだから。」
 「逆に考えてみたら如何です?
  軍人を里に招くのではなく、里の人間を自衛隊員にするとか。」
 「……次善の策としては、ありました。」
 
 肩の関節を切り落とす。
 
 「わたくしとしては、焦りがあったのも確かでございます。
  今すぐに、自分の知らぬ知識を手に入れたかった。」
 「向上心と好奇心は大いに買いますが……。」
 「この里が独自に持っていた忍者としての伝統など、たかが知れています。
  それに、外の人を頼る、というケースについて早く学んでおきたかった。」
 「経験から言えば、よほどでないかぎりよそ者はトラブルしか持ち込みません。」
 「……。」
 
 ではどうしろと。
 沈黙に念を含めながら、小鳩は死体の胸の肉を剥がした。
 
 「瑠璃の里のやり方では、平和的に外部の経験者を取り入れることはまず不可能でしょう。
  よっぽどダーティで割り切った人材でもない限り、ヤクザの為に全力を尽くす事なんてありえない。
  これは、悪党の最大の欠点でもあります。」
 「諦めろと。」
 「やり方を改めろと言っている。
  僕は師範ではあるが、ご指摘のとおり忍者の師としては不十分です。
  忍者の師の能力を持ちつつ、里にある程度の忠誠を誓ってくれる人材……。
  これは、里の人間に知識を持たせる方が早いに決まっている。」
 「……。」
 
 割った腹から臓物を引っかき出す。
 
 「銃声すらも事件になるのがこの日本です。
  平和ボケといわれているが、平和にボケているからこそ、皆、異常事態に敏感。
  皆してガッツリ酒を煽ってるから、現実的な事を言い出すシラフの野郎が怖くて仕方が無いんです。
  行方不明者を連続で何人も出す事だって、危険極まりない行為なのですから。」
 「……ご最もで。」
 「ご不満なご様子。」
 「そんなことは。」
 「いや、わかりますよ。声に出さなくても、態度で。
  あなたも僕に反抗的な態度を取れるようになったのですねぇ?」
 「……。」
 「幾許かの人間性を手に入れて、ようやっと分かったでしょう?
  僕、結構嫌な人間だって♪」
 「……。」
 
 小鳩は黙って、死体から首を引っこ抜いた。
 
 「ま、外から誘拐するのはやめた方がいいですよ。
  金で平和的に懐柔するか、内にいる人間に合法的に技術をつけさせるか。
  ……焦る気持ちは、僕も分かっているつもりです。
  僕だって、できるなら今すぐに始末をつけたいんだ。」
 「……はい。」
 「ま、時間をかけてもいいんじゃないですか?
  こちらの切り札は、丘・敬次郎一枚だけなのだから。」
 「……時間をかけたら、ゲームが終わってしまうのですが。」
 「もし時間が足りないなら、その努力はそもそもそのゲームにそぐわない努力だったということです。
  見切りは肝心ですよ、鳩?」
 「……心得ます。」
 「ところで、それが終わったら時間あります?
  心の洗濯をしたいんですけど?」
 
 次郎はそう言って、人差し指と中指の間から親指を覗かせた。
 小鳩が振り向いてそれを確認すると、彼女は嬉しそうに笑った。
 
 
 鳩はセックス大好きです……。
 
 セックス!セックス!!
 
 ……。
 
 以上。」
10月20日

実るほど

 「お前の不本意こそが本意だ。
 
 お前みたいな奴が本意を叶えるなんて悪夢だ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 秋味
 
 「米の具合は如何ですか?」
 「あら、お帰りなさい。」
 
 山里を眺めていた灰髪の少女に、黒髪の少年が声をかけた。
 どちらも二つに結った長い髪を秋風に揺らしている。
 薄茶色に実った穂が、狭い畑一杯に犇いていた。
 
 「『お屋形様』、丘・敬次郎只今帰還いたしました。」
 「米は例年通りと言ったところですね。他の作物も同様に。
  どちらにせよ大した問題ではありませぬ。うちの主たる収入源は、『貿易』ですから♪」
 「ならば重畳にございます。」
 「しかし珍しい。あなたが米の出来高を気にするなど。」
 「故郷の収穫を気にするのは、里の若頭として当然の事です。」
 「故郷ですか……♪」
 
 『お屋形様』と呼ばれた少女がころころと笑う。
 
 「時に、鳥越は一緒ではなかったのですか?」
 「ええ、僕より先に出たはずなのですが、まだ着いていませんか?」
 「いえいえ、挨拶は既に受けました。
  彼女はあなたの命令で先に来たと言っておりましたが、如何様なことかと思いましてね。」
 
 『お屋形様』の青い瞳が丘の黒い瞳孔を見つめた。
 
 「他意はございません。
  若頭より先に帰って出迎える体で無いと、部下としても見栄えが悪かろうと思った次第。」
 「あれはお前の目付けなのですけどね?」
 「一泊二日の強行軍で悪さが出来るほど、僕は出来た忍びではございません。」
 「……ま、そういうことにしておきましょうか。」
 
 『お屋形様』が踵を返すと、丘もその背を追って歩き出した。
 
 
――――
 
 「失礼致します。」
 
 丘が障子を開けると、『お屋形様』と、もう二人。
 黒髪で背の高い中年と、灰色髪を短く刈った背の低い少女が座していた。
 
 「や♪お久しぶり♪」
 「『お師匠様』、いらしていたのですか。」
 
 丘が黒髪の中年に深く頭を下げる。
 『お屋形様』の手招きに応じ、下座の座布団に座る。
 
 「お帰りなさいませ、『若頭』。」
 「只今帰りました、鳥越。」
 
 背の低い少女が頭を下げ、丘が笑顔を返す。
 
 「キュウちゃんからさっきまで学園生活について聞いていたところなのですよ♪」
 
 キュウちゃん、という呼び名に鳥越の眉が微かに動いた。
 
 「ほう、如何でしたか。」
 「まあ良くもなし悪くもなし。
  あなた使役でもないサキュバスと同衾してるとか?」
 「言う事を聞かなくて困ったものです。」
 「そのことも伺いました♪」
 「キュウちゃん余計な事言わないで良いのに。」
 「キュウと呼ばないで頂きたい。」
 
 丘に険しい顔を向ける鳥越。
 彼女は名を九(いちじく)と言うが、先輩連中からは「キュウ」「キュウちゃん」と呼ばれている。
 本人は全く気に入っていないようであるが。
 
 「ま、ちょっとね。今日は僕の所信表明、というか。
  お説教みたいなものを。」
 「……。」
 「拝聴いたします。」
 「は。」
 
 『お屋形様』が目線を向け、鳥越が頭を下げ、丘は居住まいを正した。
 
 「まず第一に。
  君らは実力の面で僕一人に遠く及ばない。」
 「……。」
 「……。」
 「……。」
 
 たった一言で空気が張り詰める。
 
 「しかしながら、君等は全員、僕に無いものを持っている。
  ……それは忠誠心です。
  己の命以上に優先するものを以って行動している。
  それは時に、無謀な選択への躊躇を消すものでもあります。
  そして、それにより、君等は必ずこの僕を越えていく事が出来ると確信している。」
 
 『お師匠様』は、どうぞ、と三人に足元の茶を促した。
 
 「僕は武術の基本もまともに身についていません。
  君等は尚更。
  しかし、基礎の土台を正しく積み上げた暁には、必ず君等は僕を超える。
  何故か?
  君等は僕に打てない一手を打てるからです。
  僕は長い事一人でこういう仕事をやってきたので、自分の命が第一です。
  常にリスクの無い合理的な手を選ぶ。
  しかし、時には合理的でない手が最善手になることもある。」
 「定石に囚われない、ということですか?」
 「ただそれだけなら素人と同じなんですがね。」
 
 質問した丘に向かって、首を傾ける。
 
 「急がば回れって言葉があるでしょう。
  僕はどうしても、回ってしまう人なんだ。
  ところが君等は、それが最も早いと直感したら、綱渡りをしてでもまっすぐ進む。
  直感とは、経験と閃きのフラッシュバックです。第六感などと言う曖昧なものではない。
  自分達が積み上げてきた経験から、脳細胞が最速で導き出した答えの事。
  論理を差し挟む余地も無く閃くから非論理的に『見える』だけで、当人にとっては最も正しい結論だ。
  危機から逃げる経験しかしていない僕には、その直感が出ない。
  任務とあらば命を捨てると覚悟できる君等は、僕に見えない最善手が見え、そして躊躇無く打てる。
  それが、僕と君等の一番の違い。」
 「……。」
 「……。」
 「……。」
 「それだけ♪」
 
 沈黙が流れる。
 秋の颪が盆地にある屋敷の障子をがたがたと揺らした。
 
 「……いずれ、自分を超えて欲しいと。」
 
 丘が口を開いた。
 
 「いえいえ。ただ、僕は決して絶対無敵じゃないってことです。
  僕は何の武術も修めていない。どれもコレも拾い食いで、好きな部分を都合よく使っているだけの半端者だ。
  体力もまだまだ鍛える余地があるし、全然弱いんです。
  そんなものを里最強などと崇められては困る、ということ。
  でなければ何のための瑠璃か?ねえ、鳩?」
 「……仰るとおりです。」
 
 『お屋形様』が無表情で応えた。
 
 「ま、皆さんそんな硬い顔しないで。
  今すぐ強くなれと言ってる訳じゃない。強さの基準も色々ありますしね。
  ただ、純然たる事実として、僕の戦闘能力程度では神を殺せなかった。
  それだけです。
 
  ……そんじゃあ難しい話はここまで!
  皆でキュウちゃんを中心に4Pです!」
 「了解しました主(あるじ)!」
 「断固抵抗いたしますイグニッション!」
 「僕が浚って来た頃はもうちょっと可愛げがあったような、なかったような。イグニッション!」
 
 断固たる抵抗は、残念ながら10秒足らずで崩壊したと言う、秋のとある山里の日暮れ。
 
 何だこれ。」
10月13日

On Her Majesty's Secret Service

 「生まれてすぐに殺すという作法があった。
 
 風習じゃない。因習でもない。れっきとした自衛の、そして社会に害悪を出さないための作法。
 
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 You Only Live Twice 2
 
 アミーゴ横須賀。
 正しくは、アミーゴ横須賀と呼ばれていた量販店の廃墟。
 
 リビングデッドの身体からナイフを抜くと、丘・敬次郎はその死体を噴水の中に叩き込んだ。
 
 「実に汚い。」
 
 ナイフを拭ったティッシュを餞のように水の中へ放る。
 
 「実体があるのはお好みではありませんの?」
 
 呪髪を靡かせてセドレツィーナ・クルムロフが振り返る。
 
 「死体を刻む趣味があると思っていたのですけれど。」
 「ああー、誤解されやすいんですよねえ。」
 
 丘が頭を掻く。
 
 「僕は殺すことには興味ないんです。
  というか、鮮度の面から言うと死んでほしくすらない。
  でも僕が捌いてると人間は死んじゃうんです。」
 「ややこしい方。」
 「グロ趣味ではないんでね。
  蛆が涌くとか腐り落ちるとかに美を感じはしません。」
 「臓腑を覗くのも十二分にグロテスクな趣味だと思いますけれど。」
 「世界が僕に追いついていないだけです♪」
 
 丘は笑って、自販機コーナー前のベンチを指差した。
 
 暫しの休憩。
 
 「まあ確かに、リビングデッドは鮮度の面では極めて劣ることは認めますけれど。
  誰にも咎められることなく分解できる人の身体、となると、あれ以上はありませんわよ?」
 「人、と言えるのかなあ?」
 
 丘が持参の水筒から水を注ぐ。
 蓋一杯をカッと飲み干して言葉を続けた。
 
 「腐っているってことは、明らかに人間の通常の代謝とは別の機構で動いているということ。
  僕は、人間、というか『生き物』の身体に詰め込まれた理屈が好きなんです。
  『死に物』なんてどうでもいい。」
 「どうでもいいなら、何故ゴースト退治を?」
 「趣味以外の部分でどうでもよくないからですね。
  それこそ、生物学の範疇から外れた……ああー、未だカテゴライズされていない、という方が適当か?
  そういうバケモノが人間に危害を加える。
  腹立たしい事です。」
 「あらら、意外とおセンチ?
  人間の生死なんてどうでもいいと思ってらっしゃるのかと。」
 
 セドレツィーナは嗤い、丘は笑顔で応じる。
 
 「人間を侮ってはいけません。決して。
  彼らの技術、彼らのコネクション、彼らの文化、彼らの歴史。
  いずれも能力者如きが積み上げられるものじゃない。
  僕だって忍者という日陰者ではあるが、人間が、それも比較的温厚と言われている日本人が作り上げた闇にすらとても及ばない。
  僕らはそういうヤクザや人でなしからおこぼれを貰って生きているだけ。
  ……これは、いと尊き我が『お屋形様』の受け売りでありますが。」
 
 セドレツィーナが眉を顰める。
 彼女にとって、人など餌にも及ばない。
 ただそこにあるだけの人形。
 命など無価値だ。
 生命活動など興味がない。
 そいつの人生がどうしたというのだ。
 
 何より、丘自身だって個人個人のヒトは軽んじているはずなのに。
 でなければ生きた人間を解剖してエレクトなんてできるものか。
 
 「なるほど、人間に御執心なのはよくわかりましたわ。
  けれど人間工学に即しないと言う意味では、能力者(あなた)も同じではなくて?」
 
 だが、丘の中ではヒトに対する悪行と敬意の折り合いは既についていた。
 
 「だから僕は、『死ななければならない』。」
 
 それが、ヒトを軽んじる能力者(バケモノ)が等しく辿るべき末路だと。 
 丘が立ち上がる。目は次の区画を見据えている。
 
 「ヒトを害する僕は、僕自身の、つまり、『いと尊き我らが『お屋形様』』の正義によっていつか殺される。」
 「正義、ですか。」
 
 はっ。
 
 呆れの吐息と共に呪髪が宙を薙ぐ。
 胴を狙った攻撃は地に伏せた丘の長い髪を掠め、
 振りぬかれたナイフはセドレツィーナの脇腹に細い傷を刻んだ。
 
 「ちっ。」
 「あなたのことをセドレ“ッ”ツィーナと呼ぶのはやめましょう。
  あなたは今の年齢相応に短気でいらっしゃる。」
 「短気だなんて。ちょっとした余興ですわ?」
 「余興、ね。」
 
 丘はにこりと笑い、ダンと地を蹴る。
 開いた扉の向こうへ。
 腐った匂いを漂わせ、リビングデッドが現れる。
 丘が吼えた。
 
 「お前らはここで終わり、終わりだ!
  お前の二度目の生を、
  この丘・敬次郎が余すところなく暴き立てる!」
 
 一閃、二閃、三閃、四閃。
 指が落ち、腹が割れ、腱が切られ、歪んだ生命の機構が露になる。
 
 「YE NOT GUILTY!」
 
 最後の審判は下り、それは呆気なく二度目の人生を終えた。
 
 「さあ。」
 
 エゴを見せてください。
 
 そう語る丘の眼差しに、セドレツィーナは言葉には出さぬまま、「はい」、と応えた。
 
 以上。」
 
10月12日

目に見えるところに書いておかないと忘れる

 中二メモ
 
 Brilliant Halo:legend
 地球防衛軍、Shatterstorm:inferno
 (Doom Blade?)Doomsday:nightmare
 Voice of Duty:Veteran
10月11日

From A View To A Kill

 「カトンボ死ね。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 不具合の再現で、サブリーダーさんが、「落ちろ!落ちろ(アプリ)!」と言っていたので、「カトンボ!」と合わせたら同僚が笑ってくれましたが今は無職です……。
 
 ……。
 
 
 今回は、イグカが出来たら何か書くという約束の元、何か書かせていただきます……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 You Only Live Twice
 
 「如何でしょう?」
 
 イグニッションの声高く、セドレツィーナ・クルムロフは戦闘服を身に纏った。
 
 「エロいですね!」
 「エロいですか。」
 「エロいです。
  あなたのような方がいるから、僕はロリコンをやめられない。」
 
 艶々と光る腰に触れようとした丘・敬次郎の手が、セドレツィーナのレイピアに切り落とされる。
 
 「ああー!」
 「慎んでくださいまし。」
 「全くもう、僕じゃなかったら大事ですよ?」
 
 サキュバス・ドールの明美に指示し、落ちた手を拾わせる。
 
 “IllegalAccessException:なんらかの毒薬や特殊なアイテム・詠唱兵器でない飛び道具などの効果は、戦闘判定に大きな影響を与える事はありません。”
  “NoSuchMethodError : 詠唱銀によって発生するゴーストと戦い、怪異を取り除き、世界の常識を守る事こそ、現代の能力者達の使命なのです。 ”
 
 赤い例外が発生し、押し当てられた手首は速やかに繋がった。
 
 「ふう♪」
 「面倒な……。」
 「何が?」
 「殺すことも、傷つける事も出来ないなんて。」
 「チェスには、駒を壊していいというルールがありません。」
 「我々は銀誓館の駒では無いと言うのに。」
 「それは、自衛隊に志願しておいて兵隊になりたくなかったと言うくらい無茶な言い草だ。
  自覚なさいな、『いい歳なんだから』、セドレ『ッ』ツィーナ。」
 「本当に意地悪なんだから。」
 
 セドレッツィーナとは、彼女が『再転入』する前の名前である。
 ロシア語の綴りに違いは無いが、銀誓館の名簿上は別の人間。
 彼女がそうした理由は……。
 
 「あなたが少女趣味だと言うから、わざわざ合わせたのに。」
 「望んじゃいないぜ、とまで傲慢な事を言うつもりはありませんが。」
 「嘘ばっかり。」
 「誰かに自分を知ってもらいたいという思いがどこかにあると、ブラフは出来ません。」
 「それは聞きたい答えではなくてよ。」
 「耳に心地良い言葉だけをお望みで?」
 「訂正します。あなたは意地悪じゃない。
  最低ですわ。」
 「最高の褒め言葉です。
  ……それでその。」
 「はい?」
 
 セドレツィーナは最高の笑顔で応えたが。
 
 「ヘソをファックはさせてくれませんか。」
 
 最低に応じた丘に、彼女は容赦なく銀の具足で蹴りを見舞った。
 
 以上。」
 
 
 
 

悲劇の無い人生

 「チンカス野郎!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 粘膜
 
 「よろしかったのですか。」
 「ん?」
 
 ゴーストタウン・ホテルいちご貴族。
 丘・敬次郎と鳥越・九(いちじく)は、友人達が去った後の片づけをしていた。
 
 「目的を知らせても。」
 「ここには誰もおらず何も起きていない。
  そういう約束のオフ会だったはずです。」
 「しかし。」
 
 “シルバーレインによって齎されたすべてを消す事”
 それを丘は余人に漏らした。
 オフレコであるとか信用がある相手だとかそんなことは関係ない。
 これは口にしてはいけない言葉だったはずだ。
 
 「嫉妬してたのかな。多分。」
 「何にですか?」
 「ヒトとそれ以外の線引き。」
 「はい?」
 
 このオフ会の最中に、アリスティド・ブリュアンは言った。
 『どこまでを『人間』『人類』でくくるかというか、正味の話、銀誓館に与している土蜘蛛やら人狼やら吸血鬼やらも合わせて隔てることになるのかい?』と。
 
 「そんなことを気にすることが出来る精神構造に。」
 「はあ。」
 
 丘の中では、バケモノの定義はごく簡単。
 『人間社会に害を為すもの』がバケモノである。
 それが障害者であれ犯罪者であれゴーストであれ能力者であれ野獣であれ、
 最大多数の幸福を阻害するものは、丘の中ではバケモノだ。
 そして、人間は社会に害為すバケモノを倒すことで発展してきたと、彼は信じている。
 
 丘は、能力者もゴーストも、『人が制御できない力を持っている』という一点からバケモノだと断じている。
 等しくヒトが信頼できない存在であり、ヒトの敵であると。
 
 どこまでを『人類』で括るかなど、愚問。
 丘は元々、能力者やゴーストに人権を認めていない。
 彼らはたまたま今幸運にも人間っぽい生活が出来ているだけで、
 丘は本来それはあってはならないことだとすら思っている。
 
 「だって、純然たるヒトですら、ひったくりをしたら警察官に取り押さえられ制圧されるんですから。
  そこに人権はない。つまり、ヒトの間にいきる「人間」ではなくなるんです。
  ましてや銃器で殺せない力を持つものが自由に生きる。これが害でなくて何が害だと言うのか。」
 「それが嫉妬ですか?」
 「多分ね。主張の対立による苛立ちも否定はしませんが、やはりこれは嫉妬です。」
 
 スナック菓子の残骸は全てゴミ袋に収まった。口を結び、鳥越が持ち上げる。
 
 「ゴミ捨て場は近くにございますか?」
 「ありません。諦めて持って帰りましょう。」
 
 丘は空のペットボトルを詰め込んだゴミ袋をもち、揃って廃墟を出る。
 
 
 ツーテールの少年と灰色髪の少女がそれぞれゴミ袋を持って月明かりの下を歩く。
 奇異な光景ではあったが、この深夜に見咎める者は居ない。
 
 「気になりますか。」
 「何がですか?」
 「僕の嫉妬。」
 
 鳥越は丘を見上げるが、表情からは何も読み取れない。
 
 「やっぱりどこかで憧れてるんだと思います。
  ああいう、人間的な悩みに。」
 「お屋形様には秘密にしておきます。」
 「それはありがたい♪
  まあバレてるでしょうけどね。」
 
 彼らの寮まではまだ距離がある。
 丘が何事か話すらしいのを鳥越は感じ取った。
 
 「どこかでズレがあるんでしょうね。
  忍者として効率を求める僕と、そうでない僕。」
 「そうでない?」
 「忍者をやってるとストレスが溜まるってのは、要するにそれを求めていないってことです。
  恥ずかしい話、僕、アニメや漫画大好きなんです。
  それもヒーローがバトルで勝つ漫画が。友情、努力、勝利!
  俗に言う『熱い』展開が好き。」
 「そうなりたいと。」
 「僕は。凡百の英雄なんだな、とどこかで思ったことがある。」
 「ボンピャク?ですか?」
 「銀誓館のありふれた、数千数万の能力者の一人、ってことです。
  この世界のエンディングを見届ける、どうって事ない勇者の一人。
  僕は、そうなんだ。
  でも、僕の仕事やアイデンティティは英雄とはおよそかけ離れたところにある。
  そのズレがね。」
 
 運動靴の足音が夜空に響いた。
 
 「僕は、あー、あれだ。
  他人のために怒ったり悲しんだりってのは、残念ながら出来ない性質ですから。
  僕の人生に悲しみはない。想像もつかない。敢えて言うなら、それが悲しいかな。
  誰かが怒っているときに、泣いている時に、僕は一緒に怒ってやれない、泣いてやれない。
  そうあるべきだし実際僕はそうなんですが、そうでありたくはないんです。面倒な。」
 「お屋形様には、秘密にしておきます。」
 「ありがたく。」
 
 月は高く、星は脆弱に光る秋の夜。
 
 以上。」
 
10月6日

エコロジー&

 「セックスしようぜ!
 
 
 ……。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 生態学的殺戮の実行
 
 「エコロジーの対極にあるものは何だと思いますか?」
 
 『お屋形様』が両手を開き、歩み寄る。
 灰色のツーテールが揺れ、スカートがはためく。
 だが目の前の男にはそれに見入る余裕など無かった。
 何しろ、彼女の殺戮を見てしまったのだから。
 自分のボディガードが如何に脆弱であるかを見せ付けられたのだから。
 
 「ねえ、何だと思いますか?」
 「……知らない、助け、」
 
 命乞いすら言い切る前に、両手から投擲されたナイフが彼の頭部を消し飛ばした。
 
 
――――
 
 「時々こうやって見せ付けておかないと、『所詮女だから』とか見当違いな憶測を立てるアホが出てくるんでね。」
 「は。」
 
 御簾越しの影に、丘・敬次郎と鳥越・九が跪き頭を垂れている。
 
 「で。何だと思います?丘。エコロジーの反対は。」
 「……及びもつきません。」
 「鳥越。」
 「わたしも、わかりませぬ。」
 
 うん、と寧ろ満足げな声が御簾の向こうから聞こえてきた。
 
 「人道です。倫理と言ってもいいかな。」
 「人道ですか。」
 「その心は?」
 「地球環境を保護するのなら、人類が滅びるのが一番の手だからですね♪」
 
 笑い声交じりの声が御簾の奥から響く。
 
 「地球環境を守るとか破壊するとかそういう考え方をするのは人間だけだからです。
  環境を破壊する、とは、主語が人間なわけですから、人間が滅びれば話は済む。
  ところが、人道は人間が当たり前に豊かに平穏に生きていく事を肯定する。
  当然、殺戮や自殺は受け入れられない。」
 「……。」
 「……。」
 
 丘は、また説教かと乾いた表情を浮かべ、
 鳥越は、どんな結論を導くのかと心を弾ませつつ、無表情のまま耳を澄ませる。
 
 「石油やその他の資源が、あと何年持つかという試算が色々出ていますが、
  実はその時点で人間の発展には限界が設けられている。
  今のまま生きるのであれば、地球にある資源では人間は文化的生活が出来ないと決まってしまった。
  つまり、人間は地球の資源を食いつぶす事が決定しているんです。
  人間の生活を維持する事は、それ自体が環境破壊になる。大地を掘り森を焼く事を止めたら、ヒトは死ぬ。」
 
 一応補足しておきますが、と言葉を置いて。
 
 「我々瑠璃忍者団は時に人の殺戮を糧として生きていますが、エコロジカルではなく、人道的な集団です。
  何故なら、我々は、我々自身の生存と権利のために働く営利団体だからです。
  我々は我々が文化的に満足して生きるためという人道を通すための団体だからです。
  我々の殺戮は、エコロジカルではない。少なくとも、地球環境保護に端を発したわけではない。」
 
 溜息一つ。
 
 「エコロジーの反対に人道があるということは。
  人道を踏みにじる行動はエコロジカルであるということです。
  例えば自爆テロなどですね。
  望んで殺し、望んで死ぬ。殺して死ねば幸せになるから。
  これは人道とは真反対にあります。正義の原点が、生存ではなく死にある。
  実行が終われば、間違いなくその人間が将来消費するはずだった資源が浮く。自分自身の分も含めて。
  実にエコロジカルです。
  ……事後処理に資源を費やす事になるというネックはありますが。
  ざっくりと言ってしまえば、宗教はエコロジカルである。」
 「……。」
 「……。」
 「宗教と言うか、狂信かな。
  自然を尊び、人間の生命活動をある意味で軽んじる。
  それが出来るのは宗教のみ。
  ……エコロジーという言葉は日本に強く浸透していますが、
  その裏面である、『最早地球は自給自足に足らない畑である』という事実は隠蔽されたままだ。
  地球の資源をすり減らさないで生きることはできない。
  そして、今の人数で使っている限り必ず枯渇する。必ず。
  節約すれば長持ちするとかそういうことではなく、限界が見えたということが重要でね。
  ヒトは早晩、地球外に新しい資源を見出すかヒト自体の数を減らさない限り、500年以内の壊滅が見えている。
 
  ……と言っても、自分の寿命の外にある危機など、何とも感じませんよねぇ♪」
 「……。」
 「……。」
 
 沈黙。そして、再び『お屋形様』が口を開く。
 
 「わたくしも何も感じていない、というのが本音です。
  ヒトが愚かだなどと傲慢な事を言うつもりはありません。
  ただ、エコロジーという言葉は聞こえの良さほど実利のあるものではないということだけ。」
 「は。」
 「はい。」
 「翻れば、聞こえと名目がよいものは、人を騙すにはうってつけと言う事でもありますね♪」
 「全くです♪」
 「……。」
 
 『お屋形様』のコロコロとした笑い声が部屋に響く。
 
 「丘、鳥越。
  お前達の身近で、聞こえと名目のいいものって何かありますか?」
 
 問う声はある種の確信に満ちていて。
 
 丘と鳥越は同じ回答を返したが、世界結界が拒絶したので誰の耳にも入ることはなかった。
 
 以上。」
10月4日

dragonic

 「泣け。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 幼き魔龍、小さき悪人
 
 「差別を一番長く根に持つのは、いつだって差別されてきた側です。」
 
 拳銃を構えながら、感情の篭らない声で丘・敬次郎が言った。
 パン、パン、と乾いた音が二つ。
 目の前の細い木の左右が小さく削れた。
 
 「当たりませんねぇ。」
 
 溜息を吐いてからもう一度銃を上げる。
 
 「使ってるんですか?それ?」
 「使ってないんですか?」
 
 眉を顰める龍臥崎・まきなと、さも不思議そうに首を傾げる丘。
 
 「最近は本職がお忙しいみたいですし、こういうことをされている最中だと思っているのですが。」
 「してませン。」
 「へぇ。」
 
 今度は三つ、パンパン、パン。
 
 「おお、当たった当たった♪」
 「丘さんは、そういうことをされてるんですか?」
 「え?」
 
 振り向いた笑顔は、『何故していないと思うんですか?』と問うていた。
 
 「……そうですか。」
 「そう、ですか♪」
 
 互いの忍者としての生き様に、少なからず失望した模様だった。
 
 「どんな……いえ。」
 「ふふ。」
 
 どんな仕事をしているので、とは聞かない。
 それを漏らすほどお互い抜けた忍者じゃない。
 
 「話って、何ですか?」
 「んー?」
 
 じれた龍臥崎に、丘は、結社では見せないような間延びした声を返した。
 
 「最近お忙しそうだなあ、って。」
 「それだけ?」
 「それだけ。」
 
 パンパンパンパン。
 
 フルオートで4発。2発は外れ、2発は木に穴を空けた。
 
 「だぁって、一時期はこちらのブログにも顔を出しててくださってたお嬢さんが、
  最近は全然音沙汰もないのですもの?」
 「申し訳ありませン……。」
 「我等が神にも覚えはあります。
  繰り糸が緩むのは、他に人形を見つけた時。」
 「……。」
 
 丘は銃をホルスターに収めると、目にも留まらぬ速さで手を振り出した。
 ばきりと音がして、木が折れた。
 
 「やはり水の方が手に馴染みますね♪」
 「あの、」
 「いつだって。
  被差別階級だけが差別を気にする。
  最低の位置にいるのはとても気持ちがいいから。
  ああ、多くの人に責められる自分は最低なんだ。
  そんな最低な自分を責め立てて自己満足してる奴らは、こんな俺より最低だ。
  つまり俺は誰よりも最高だ。
  そんな歪な自尊心。
  自分以外に興味が無くなる思考回路。
  他人との関係を上下でしか見られない貧しさ。
  差別されているんだ、特別な同情をもらって当たり前だろう、という浅ましさ。
  味を占めれば、平等すら求めもしない。
  何のことはない、被差別階級こそが、その地位を一番欲しがっている。」
 「……。」
 「僕もそうならないように、とは思っていますが。
  難しい。
  何しろ、僕の根源は同属嫌悪ですから。」
 「あう……。」
 
 丘の目線が、龍臥崎にはとても冷たく感じられた。
 顔は笑っているのに。
 
 「気をつけてくださいね。」
 「はい?」
 「神は、ばさりとは切り捨てない。
  少しずつ薄めていってしまう。」
 「??」
 「飽きというのは突然に来るんです。
  そして、それからすーっとその趣味は薄れて消えて行く。
  九の投入は、やはり僕にとっても悪影響がありました。」
 「え、あ、ああ?」
 
 丘の姿が幻のように薄れて消え、龍臥崎は辺りを見回したが。
 
 以上。」
9月29日

楽園ギャラクシィ

 「♪夏の お嬢さん 準備 そろそろOK? それじゃ お知らせしましょ わぴこの元気予報♪
 
 ……あれ?
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 百目の土手
 
 「きゅうちゃん。」
 「そう呼ばないで欲しいと申し上げたはずです。」
 
 大周防炭鉱。
 村の家屋や作業用機械を背景として、鳥越・九(いちじく)に、丘・敬次郎とサキュバス・ドールの明美が向かい合う。
 その様子を、少し離れたところから「お屋形様」が見ている。
 
 「準備はよろしいですか?」
 「はい。いざ。」
 「イグニッション!」
 「イグニッション!」
  
 
激亀忍者伝
============================================================
 この作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する
『シルバーレイン』の世界観を元に、
株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
 イラストの使用権は作品を発注したお客様に、
著作権はのら男爵に、
全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
============================================================
 
============================================================
 キャラクター   :鳥越・九(b68569)
 商品名      :イグニッションカード
 料金       :★4個
 サイズ      :横480×縦640ピクセル
 セキュリティレベル:シルバーレイン
 発注文章     :参照用バストアップとは違うイメージをお願いします。
・体形その他
髪の色・瞳の色・体形はプロフィールどおり。
特に頑丈さをきちんと描いていただけるとありがたいです。
ムキムキにしてもかまいません。
背はとても低いです。
・髪型
短く刈った白髪をオールバックにしています。
・詠唱兵器
右手にトンファー。長い部分は円柱ではなく角柱状。
亀の意匠が施されています(場所は問いません)
・服装
○大小の目が幾つも描かれた黒い長袖のシャツ。禍々しいデザインをお願いします。
○白い手袋をしています。手の平に、広目天を表す梵字が描かれています。
○下半身は長襦袢。これも大小の目が幾つも描かれています。
○その他装飾品はお任せします。
 忍者っぽさ、あるいは戦闘員っぽさが出るならどんな者でもかまいません。
・ポーズ
○両足を開いてトンファーを構えています。左手は小指と薬指を折りたたんだ状態で前に突き出しています。
============================================================
 
 
 (創造神・HATOの呟き……長襦袢って、「和服のようなズボン」だと思ってたのです。
  だって長襦袢って、「ナガジュバ~ン」「アザブジュバ~ン」という、フランス語っぽく聞こえる言葉ネタでしか聴いたことが無くて……。
  このネタ自体は、ある年のラジオ「ゆく年来る年」。
  三重野瞳、デーモン小暮、田中真弓、千葉繁、岩男潤子(何故か電話出演)、広井王子その他と言う
  ある種のドリームチームで構成された凄まじい年越しでした。SMAPの年末ドミノもこの年だったと記憶しております。
  うまいことマスタリングしていただきました、ありがとうございます……。)
 
 「これはこれは♪」
 
 白いコートの詠唱防具を装備した丘が、感嘆の声を漏らす。
 力を解放した鳥越の衣服には大小の目が無数に描かれ、
 足から腰にかけては苦無を幾つも収めた帯が巻きついている。
 鍛え抜かれた上腕がシャツに食い込み、小学生らしからぬ隆々とした筋骨が浮かび上がっている。
 
 「肉厚でおいしそうな土手♪」
 「なっ!」
 
 丘が爪先で鳥越の股を突(つつ)いた。
 
 『あれは多分着膨れ』
 「あらそうなんですか?」
 「どうでもいい事です!」
 
 明美の手話に丘が応えると、鳥越は抗議の声を上げた。
 鳥越の布が颪にはためく。
 
 「鳥越。」
 「は、はい!」
 
 『お屋形様』の声に身をこわばらせる。
 
 「布が煽られるとスキマ妖怪みたいですね。」
 「何ですかそれは!」
 「あなたその布かぶったらスキマでワープできるんでしょ?」
 「どんな設定ですか!」
 
 土手に肉がむっちりついているのかどうかは、ご想像にお任せします。
 
 以上。」
9月27日

知りたいか お前の末路 身も凍る 悪夢

 「我が名にかけて ー 捌き ー 完了
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 買い叩く奴ら
 
――――土蜘蛛は恐ろしいものです。厳然とした事実として。
――――しかし相手の意を汲んでしまったら。僕らはそいつを倒せなくなる。
――――人間に害を及ぼすという一点を責められなくなる。
――――『生きる為ならしかたがないのかもしれない』と納得してしまう。
――――だがそれは間違いなんだ。『生きていてはいけない』。
――――仕方がないも何も、そのバケモノの生命を許しちゃいないんだから。
――――理解も納得も、手を出さない理由にもならないんです。
――――丘・敬次郎、2008年2月29日付けのブログエントリにて
 
 
 血の高ぶりを起こす。
 
 何やら雑務が重なり集中が出来ていなかったが、それは個人的なものだ。
 制圧指令は既に出て、明日にはそれを実行する。
 最早心も頭も準備しきっていなければならない。
 
 どこかで語られていたセオリーを思い出す。
 “歴戦の兵は寧ろ戦争に向かない、何故なら彼らは生き延びたがってしまうから。”
 
 兵は資源だ。死ねば装備は無駄になる。生きていればその分長く戦える。
 だが、それは生き残った兵と装備が再度役に立てばの話。
 二度目以降、尻込みして逃げるようなら資源として機能しない。
 正気に戻ってはいけない。
 
 能力者の戦争は、人のそれより尚酷い磨り潰し合いになる。
 一人ひとりが百人力。それが傷つき疲れ、五十人力になり二十五人力になり十二人力になりして、
 それでも魂の力で立ち上がり、前に進む。
 
 気持ちよく死ねる銃器などない。
 永劫苦しみの続く四肢の切断も無い。
 
 能力者の肉体を圧倒的に破壊する手段はこの世に無く、
 あらゆる怪我は時間さえあれば必ず治癒する。
 
 アインシュタインの唱えた第四次大戦のように、近代兵器なるものは一切存在せず、ただただ病院送りになるまで殴りあう。
 
 無論命はかかっている。
 けれど死者など、それこそ暴走族同士の抗争で死ぬような割合。
 
 そうだ。能力者集団というのは、暴走族なのだ。
 
 「ふふ。」
 
 足腰立たなくなるまで叩けば勝ち。
 殺すことに何の価値も置かない。
 何てオーソドックスなジュヴナイルだ。
 
 「はは。」
 
 死ぬ事はある。
 だがそれよりも痛い目に遭う事の方が恐しい。だって気をつけていればまず死なないもの。
 相手もまた殺戮に価値を置かないのだもの。そして、どんな怪我でも治ってしまうのだもの。
 
 「ひひ。」
 
 すっかりと闇を取り戻した。
 我々は正義などではない。純然たる悪だ。
 人間にこだわる、という旗印を掲げたチンピラの集まり。
 なら、“おあつらえ向き”じゃないか。悪党たるこの自分に。
 
 人を守るためとか、そんな緩やかな正義に反吐を吐きそうになる必要など初めから無かった。
 人死にを見たくないから。
 同属である能力者、来訪者、ゴーストが「我等の領分」に入るのが許せないから。
 つまり、人を守るという「悪」のために叩き潰そうというのだ。
 テリトリーに入って勝手を抜かす同属を追い出したいのだ。それも全く容赦の無い手段で、最も怒りを叩きつけられる方法で。
 
 「ふふはは。」
 
 彼の白い戦装束は、まるで特攻服のように長い。
 胸には「鳩」一文字、背には金色に輝く蛟。
 
 まるで。まるで暴走族だ。
 まるきり、同世代の不良の姿だ。
 
 凡百の英雄の一人に?おこがましい。
 
 俺は、ただのチンピラ。銀誓館の丘だ覚えておけ、と他校のチンピラに中指を立てるのがお似合い。
 チンピラらしく、小さな縄張りにこだわって大きな声で吼えるのが正しい。
 
 なぁんだ。皆喧嘩がしたいんじゃないか。
 冷徹に殺すのでもなく、残虐に攻めるのでもなく、皆殴りつけたいだけなんだ。
 戦争らしく工作なんかする方がおかしいのだ。
 
 忍者である自分を誇れる場面など、初めから用意されていない。お呼びじゃない。
 
 二年かかってやっと気づいた。ただ殴りつけるだけでいいなんて!
 
 俺は命ではなく、喧嘩を買ったのだ。
 とっとと終わらせて、命を買いに往こう。
 お祭り騒ぎの裏方気取りはもう止め。
 
 命にはまだ、ティッシュ五枚分ぐらいは価値があるから。
 
 
 命以下の価値しかない狐どもを、泥臭く力任せに殴りつけよう。気絶するまでボコっていい。丁寧に殺す必要は無い。
 とても簡単なお仕事です。
 
 
 「あははははは。」
 
 これが、僕らに許された、最低で最高のジュヴナイル活劇なんだ。少年漫画なんだ。
 俺はエキストラ。
 俺はエキストラ。
 とても簡単なお仕事です。
 とても簡単な。
 
 
 とても簡単に、俺の腹は決まってしまった。
 とても簡単に。
 
 
 以上。」
9月26日

急げ 若き勇者よ

 「カスが!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 百目
 
 部屋のチャイムを何度か鳴らされたが、丘・敬次郎は構わず机に向かっていた。
 鳥越です、とドアの外から名乗りが聞こえてから、ようやく席を立つ。
 
 「どうも。」
 「丘様、お忙しいところだったのでしょうか?」
 
 ドアの前に立っていたのは背の低い、灰髪碧眼の少女、鳥越・九(いちじく)だった。
 
 「いえ、名乗らない客には出ないと決めてまして。
  大抵ろくでもない勧誘か何かなんで。」
 「然様ですか。」
 「学生寮に入ってくる勧誘員なんか殆どいないからあんまり意味が無いんですが、
  一応、身分を明らかにしない訪問者には警戒するってことで。」
 「それは失礼致しました。
  今、お時間を頂いても?」
 「……屋上、行きましょうか。」
 
 ヘッドホンをしてパソコンに向かっているサキュバスに留守番を頼むと、丘は部屋を出た。
 
 ――――
 
 「丘先輩、じゃなく、丘様ってことは、里からの伝言ですか?」
 「はい。」
 
 九月も終わり頃ながら、日中の日差しはまだ強い。
 二人は光を避け、日陰で対面していた。
 
 「身分を明らかにせよ、と。」
 「……お目付けでしたか。」
 「お察しのとおりでございます。」
 
 鳥越は頭を下げた。
 彼女は、丘の要請をうけて里から派遣された。
 丘にとっては、自分の結社の管理を任せる以上の意味はなかったのだが、
 里からは別の、それなりに意味のある命を受けていた。
 
 「あのお屋形様が本当にブログ管理続行のためだけに人材派遣とかありえませんからねー♪」
 「そうですね。」
 
 鳥越は丘の笑みから目をそらす。
 
 「で、身分ってのはそれだけですか?」
 「は?」
 「何のための目付けなのか。そこまでの説明は要らないので?」
 「……『本当にハッピーエンドを見届けたがっているのか』を、見るように。と。」
 
 ふむ、と丘が息を吐く。
 
 「では、僕が道を外れそうになった時は、あなたが僕を制御すると。」
 「わたしはただの計器です。
  制御装置の一部品でしかありません。」
 「なるほど。
  ハッピーエンドって何ですか?」
 「お屋形様が幸せに終わる事です。」
 「また淀み無く応えましたね。」
 
 丘がまた溜息を吐いた。
 高々小学六年生の少女が、ハッピーエンドという抽象的なものの定義を躊躇無く応えられる。
 それは、正に『ハッピーエンドとは何か』を教えこまれたからに他ならない。
 
 里の中でもごく一部しか知らない――――というより、丘のみが知っていた――――お屋形様の正体を知っているということだ。
 
 鳥越自身に自覚があるかは分からないが、彼女はもう、里にとって切り離す事のできない存在になってしまった。
 
 丘と同じく、『お屋形様が幸せに終わるための人形』に。
 丘は自分がそうだと知って、心穏やかではなくなった。
 里は、そんな丘を制御するために鳥越を教育し派遣した。
 丘が組織の手を離れ、スタンドアローンになりつつあるのを察して。
 
 「期待を裏切るつもりは無いんですよ。」
 「もしそうなら。
  とっくに抹殺命令が出ているはずです。」
 「ですよね。」
 「でも、転入当初の丘様と今の丘様は、明らかに違う。」
 「でしょうね。」
 「丘様。里からの託(ことづけ)がもう一つ。」
 「何でしょう?」
 「丘様は、何になりたいですかと。」
 「ん。」
 
 丘は、たっぷり数十秒思案してから、応えた。
 
 「正義のヒーローに。」
 「……では、そのように報告しておきます。」
 「鳥越さんは?」
 「わたしはスチュワーデスになりたいのです。」
 「本当にいい教育をされてますね♪」
 
 では、と鳥越が去った後も、丘はしばらく、風を浴びていた。
 
 以上。」
9月22日

時の迷路を走り抜けろ

 「行くぞ、も、殺す、も。心の中で己に言えばいい。
 
 余計な言葉は気配を発するだけだ。鼓舞をするのは壇上の奴に任せておけ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……?
 
 
 無理が通れば進化論は要らない2
 
 「神め。」
 
 筧・次郎がそうつぶやいたのを、鳩は聞こえない振りをした。
 
 「ただ待つ身というのは、退屈なものですね。」
 「主(あるじ)はこちらでも仕事を見つけているではありませんか。」
 「暇つぶしにはなりますが、やはり焦燥には足りない。」
 
 盆地に吹く颪は強く、鳩の灰色の髪が激しくはためいた。
 
 「次元は超えられたが、ここには僕の憎んだあの神はいない。」
 「……。」
 「わかっています。僕は『あそこ』に愛想を尽かしてここで神を殺すと決めた。
  しかし。代理は所詮、代理でしかない。」
 「……主。それを言っては。」
 「わかっています。」
 
 かつて魔皇と呼ばれた男と、過去に逢魔という種族だった女。
 ヒトを管理せんと乗り出した神を憎悪し、決着を着けることが出来なくなった世界に絶望し、
 詠唱銀の世界へと理不尽として降臨した。
 
 「それでも。
  僕のこの殺意は僕のものだ。」
 「……。」
 
 幾多の天使を殺した。
 数多の人を殺した。
 絶望を慰めるため丘・敬次郎という後継まで作った。
 それでも。
 
 「僕の愛しい憎悪が、疼くんです。」
 「……鳩は、どこへでもお供いたします。」
 「……ふふ。」
 
 次郎は、嬉しそうに笑った。
 
 「じゃあ、もう一回がんばってみますか♪」
 
 次郎の体が三次元から二次元へ、二次元からバイナリへと点滅し変貌していく。
 鳩も目を閉じ。己の体を01の符号に分解する。
 
 彼らの宿敵デウス・エクス・マキナ。
 
 どこかの平行世界の地球上、北海道においてあるサーバーマシンが、彼らの憎む神の正体。
 かつて彼らの足がかりとなる世界を作ったコンピュータ。
 操作するものを失い、完全に停滞した世界そのもの。
 
 そこには、01ではない真のアナログが存在するという。
 
 「でも僕は量子力学論者ですから♪」
 
 バイナリコードの塊が言葉をつむぐ。
 
 「いずれ、世界の全てが数値で表される未来を信じている。」
 「……そうなれば。」
 
 ヒトが現実をバイナリだと認識すれば。
 或いは真のアナログは消滅し、彼らは彼らのバイナリをその世界の量子として顕現できるだろう。
 
 「僕は人間を諦めていませんから♪」
 「存じております。」
 「さあ、もう一度やってみましょう。」
 
 風景が崩れ落ちる。
 世界はオーロラのようにゆがみ、二つのシリアルコードが光の速度で飛んでゆく。
 
 01000100 01010010 01000001 01000111 01001111 01001110
 
 人智を超えて、命の形さえも超越して。それは、そういうものになって。
 脆弱でみすぼらしい絶対の神を、殺しに行く。
 
 以上。」
 
 
9月12日

無理が通れば進化論は要らない

 「ピクル。
 
 ……まあ、今更ですけども。
 
 ……ギャグ漫画としての認知度が高いバキですが、これでも鳩は比較的まじめに読んできたつもりです。
 
 が、流石に「間接を組み替えて最終形態」には何の説得力も感じなかったなということで……。
 
 ……丘が見たら怒るだろうなあ。「人体はそんな風には出来てない!」
 
 ……まあ……ピクルはヒトではありませんから……。
 
 ミルドラースとかエスタークとかそういうものですから……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 無理が通れば進化論は要らない
 
 「や♪」
 
 丘・敬次郎が片手を上げて挨拶をすると、きづいた鳥越・九(いちじく)は、びくりと身を固くした。
 彼はサキュバスと組んで鳥越の純潔を強引に散らした。
 
 「おや、コンタクトの印象は最悪?」
 『致し方なし』
 「おう!いたんですか。」
 
 ノートパソコンのディスプレイが差し出される。
 その所有者はサキュバス・ドール「明美」。『元』丘の使役ゴースト。
 
 明美はキーボードをたたくと、くるりと回し画面を九に見せた。
 
 「!」
 
 全裸で液体にまみれる九が、丘の生殖器に貫かれずぬずぬと揺れている映像。
 
 瞬時にイグニッションし右手のトンファーでディスプレイをまっすぐに狙うが、明美の方が一段早く。
 パソコンをたたんだ上で『インパクト』の一撃を避けた。
 
 「くっ!」
 
 泳いだ体の側面には丘。
 つんのめった体を支えるつま先を、容赦なく刈り取る。
 
 半ばたたきつけらるように、九は顔面から地面に落ちた。
 
 「むぐ……。」
 
 起き上がろうと両手を地面につけたところで、頭部を踏み潰される。
 
 「んがぁ……!」
 
 声らしい声も出ない。
 
 「が、ぐ、!、!、!、!」
 
 何度も何度も。
 
 鼻が潰れ、歯が折れ、目から血が出てもストンピングは続く。
 
――――タイミング……。
 
 九はそれでも希望を捨てていなかった。
 踏まれるタイミング。それさえ分かれば、糸口はつかめる。
 
 何度目とも知れぬ丘の踏みつけ。
 深く深く踏み込んだ足首を、九は遂に掴んだ。
 
――――この脚を折る!
 
 トンファーの動力炉を激しく回す。
 だがその右手を今度は明美が踏み拉いた。
 
 「ああああああ!!!」
 
 間接を破壊される痛みは、九の身に悲鳴を強いた。
 
 「人が来てしまいますね。」
 
 地を蹴る音。
 首を上げる気力も無い。
 誰かが駆けつけてくれるだろう。
 保健室に連れて行ってくれるかもしれない。
 けれど、本当のことを話すわけにはいかないのだ。
 本当のことを話しても、世界結界で理解されないのだ。
 あの忌まわしい膣への暴虐も、
 あのおぞましい男の欲情も、
 あの恐ろしいサキュバスの腹の底も、
 誰一人理解しない、理解し得ない。
 
“IllegalAccessException:なんらかの毒薬や特殊なアイテム・詠唱兵器でない飛び道具などの効果は、戦闘判定に大きな影響を与える事はありません。”
“NoSuchMethodError : 詠唱銀によって発生するゴーストと戦い、怪異を取り除き、世界の常識を守る事こそ、現代の能力者達の使命なのです。 ”
 
 赤い例外が強いる。健全な学徒たれと。“お前の記憶にある出来事は『存在しない』”と。
 
 ただ、泣いた。
 
 以上。」
 
9月11日

アニマ・超音速剣<ソニックセイバー>

 「たまにはね。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 あかい神様のブログを読んでいたらうずうずしてまいりましたので……。
 
 ……妄想シルバーレイン。
 
 其は超音速の風
 
 銀誓館学園、蘇矢部キャンパス屋上。
 黒く短い髪の中年男性が立っている。
 
 鉄製の扉が軋み、黒く長い髪の少女が出てきた。
 
 「ようこそ♪えーと、佐藤さん。」
 「違います。」
 
 にこやかな男性に、表情の無い顔のまま歩み寄る。
 
 「じゃあ、鈴木さん?」
 「違います。」
 「高橋さんだ!」
 「違います。」
 
 5mほどの距離を置いて、少女は止まった。
 細く鋭い赤茶の目で、油断無く男を見据えている。
 
 「日本三大苗字に当てはまらないとは……。
  もしかしてあなた、日本人では無いのですか?」
 「あなたの苗字はなんと言うのですか?」
 「筧ですが何か?」
 「……。」
 
 ちなみに、苗字「筧」の人数は日本全国で4077位。
 目の前の少女のそれより、1000以上水を空けられている。
 
 「山道・勁です。」
 
 埒が明かぬの判断し、少女が名乗った。「山道」は2758位。
 
 「知ってます。」
 「あなたがふざけるからです。」
 
 山道が、ぐ、と筧を睨む。
 
 「ちょっと話をしてみたかっただけです。」
 
 何用ですか、と口を空けかけた矢先、水を差された。
 
 「瓜生ちゃんは別の時空に飛んでしまうし、接点があるのがあなたぐらいしかいなくてね♪」
 「わたしとあなたは初対面の筈ですが。」
 「まったまたぁ♪」
 
 筧が胸元から折りたたんだ、何某かのプリントアウトを取り出し、ひらひらと振って見せた。
 
 「イフェクテューショーン♪」
 「わかったわかったわかりました。」
 
 実は、筧の手先である丘・敬次郎が学校に転入してから、一番最初に彼に手紙を送ったのが彼女なのである。
 丘がまだ、生徒に、接触らしい接触すらも行う前に。
 そして、その手紙の冒頭には、「ナメた名前にもほどがありますね」と。
 つまり。
 
 「わたしは、あなたを知っている。」
 「結構♪」
 
 筧が満足そうな笑みを浮かべた。
 
 「あの名前を手に入れるのは結構苦労したんでね♪
  一点ものはいつだって、売るのは簡単だが買うのは困難を極める。
  苗字「丘」は全国でも少ないんです。ましてやティーンエイジャーでケイジロウとなれば、
  存在自体が奇跡に近かった。」
 「……用件は。
  内容によっては、ぶった切りますが。」
 「それが僕にとって脅しにならない事も、あなたはよくご存知の筈だ。」
 「……。」
 「構えないでください。そんなに大した事じゃありません。
  ただ本当に、世間話がしたいだけです。」
 「あなたとわたしの世間は違います。
  意味のある会話をするのは困難かと。」
 「んー、嫌われてますねえ、こんなに誠実で正直なのに。」
 「どの口が。」
 「試してみます?」
 「セクハラですね。訴えます。」
 
 唇を突き出す筧に、山道が冷たく言い放つ。
 
 「おお怖い怖い。」
 「正直、話す事などありません。
  敵意でも悪意でもなく、単に、わたしには『現実』が不足している。」
 「さにあらば、これにて満足と致しましょうか。
  まずは、縁が繋がった、と。」
 「ぶった切ります。」
 「残念ながら、『ディスコミュニケーションもコミュニケーション』。
  拒絶も許容も、コミュニケーションの一環に過ぎません。」
 「では、あなたの呼びかけにはもう二度と応じません。」
 「好きな食べ物は何ですか?」
 「……奢って頂けるなら食事はしますが、会話はしません。」
 「それでも結構♪
  年頃の女の子が健やかに食べているさまを眺めるだけでも、眼福というもの♪」
 「セクハラですね。訴えます。」
 「おお、怖い怖い♪」
 
 ではまた、と、筧は屋上から飛び降りた。
 山道が下を覗き見たときにはもう影も形も無く。
 
 そのとき、背後から扉の開く音がした。
 
 「山道親分?」
 「親分ではありません。」
 
 現れたのは件の丘・敬次郎。
 この後丘は、彼女に豪勢な夕食を奢らされる羽目になる。
 
 以上。」
9月9日

人間原理

 「お前がそう思うんならそうなんだろう お前ん中ではな。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 これでもバトン回答用エントリなんだから世の中わからないものです……。
 
 
 
 ●1日に何回食事をとりますか?
 
 基本的に取りません。
 ついでに言えば排泄もしません。アイドルだから。
 
 ○間食はしますか?
 
 とてもします。
 
 ●「これだけは食べられない」というものはありますか?
 
 ……。
 うんこ、かな。
 
 ○今、一番食べたいものは何ですか?
 
 凄くやわらかい肉を炙ったものを頂きたいです。
 マグロのトロの炙り、或いは何らかの哺乳類の脳みそなど。
 舌触りが良くて脂の風味、或いは独特の味がする肉を頂きたいのです。
 
 ●断食をしたら何日耐えれると思いますか?
 
 生物としては寿命までいけます。悪魔なので。飢えもありません。
 が、口寂しいという思いにいつ挫けるのか、という事になれば、
 未来の事はわかりません。
 
 ○TVの料理番組で紹介される作り方を実践したことはありますか?
 
 ございません。
 料理らしきものをしたことも殆どありません。
 
 ……うどんですか?あれは料理ではなく、民芸品の作成に当たります。
 
 ●甘いほうが好き?辛いほうが好き?
 
 どちらかと問われれば甘いものです。
 キャッシュの続く限り食べる事が出来ます。
 最近はアルコールも頂くようになりましたので、おつまみとして、塩辛さのあるものをつまむ事も多くなり、辛いものも好きになってきました。 
 
 ○このバトンをまわす人を3人以上書いてください
 
 ぴの
 あむる
 かげきよ
 きやらか
 
 
 以上。」
 

世界が平和になりますように

 「Peaceとの出会いは、鞄をぶつけてめがねを壊してしまったとある男性との出会いがきっかけです。
 
 ……出会いっていうか、眼鏡弁償させていただいた後、喫茶店で吸ってらした。
 
 両切りたばことの初の出会いでもありますが、心底どうでもいいですよね……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 驕慢
 
 部屋を出て廊下に転がり出る。
 迫る足音に振り向きもせず、丘・敬次郎はポケットから携帯電話を抜いて開いた。
 揺れる視界で着信履歴を確認しボタンをプッシュ。
 耳に当てたスピーカ部分から数字をなぞる音が聞こえる。
 
 (出ろ早く!)
 『はい、若頭?』
 「いてっ!」
 
 背中を襲った衝撃に思わず振り向く。
 “敵”を視認、あの残心は龍撃砲だ。煌く火花が砲撃の跡を描いている。
 青龍拳士は自分もやっていた時期があるからよくわかる。
 
 『若頭!?』
 「お屋形様を呼んで下さい!早く!僕じゃ手に余る!」
 
 角に転がり込みながら電話を畳む。
 近寄る足音を確認し、右腕に体内の水分を集中させ、放出する。
 鋭い水流が刃となり壁を掠めて飛んだ。
 
 「くそっ!」
 
 “敵”の舌打ち。
 どうやら目潰し程度には効いたらしい。
 
 が、逃げてくれる程柔でもない。
 程なくして、“そいつ”は角から姿を現した。
 
 背は高くも無く低くも無く。歳は25~35と言ったところ。
 短めに刈られた黒髪、茶色の瞳。
 紺色の背広とスラックス。
 そして。右手には、狼を模したリボルバーガントレット。
 左手で右脇腹の傷口を押さえている。
 水刃手裏剣は、どうやらそこに当たったようだった。
 
 丘はここに、『特別攻撃』を執行するために来ていた。
 忍者団瑠璃の平均レベルを上回る能力者専門の撃退・殺害。
 瑠璃の中で突出した実力を持つ丘は、能力者組織の切り札として度々特別攻撃を執行していた。
 
 「……。」
 
 目の前にいる青龍拳士もまた、そんな『ごんたくれ』だ。
 人ではなく、能力者を殺す専門の用心棒。
 互いに立場は分かっている。交わす言葉など無い。必要無い。
 丘は既に、右手にナイフを握って構えていた。
 
 実力は、四分六分で多少丘優勢と言ったところ。だが、その程度の差は簡単に覆る。
 『五分の勝負は勝負では無い』。これは瑠璃忍者団に徹底された、仕事に対する姿勢だ。
 任務の遂行が全ての前提である忍者にとって、五分の勝負というのは、『五分負けている』のに等しい。
 
 四分六分でも同じ事だ。忍者に博打は許されない。
 だから丘は、『お屋形様』を呼んだ。『お屋形様』ならば、野良の能力者風情に敗北はありえない。
 つまり、保険をかけたのだ。博打に負けてもいいように。
 
 ふうぅー ふうぅー
 
 丘は、細い息を吐く。
 目の前の男は既に臨戦態勢で、動きを待っている。
 向こうも、四分の不利は知っている。その上での戦術を組み立ててくるだろう。
 手にはナイフ一本。
 奴の狼に比べれば、破壊力で劣る。鋭さ一点が唯一の勝機。
 
 そう。鋭さ一点が……。
 
 丘は、口の端を僅かに吊り上げた。
 
 
~~~~~
 
 「お見事でございます。」
 
 灰色のツーテールを揺らし、『お屋形様』が“敵”の死体を眺めている。
 
 「恐悦至極。」
 
 頭を下げる丘の手には、べったりと血のついたナイフが一本。
 『お屋形様』は死体を見下ろしながら、にっこりと笑った。
 
 「見つけたようですね。あなたの『悪夢』。」
 「はい♪」
 
 “敵”の肉体は、ズタズタに切り裂かれていた。
 指先、肘、肩、腿の付け根、下腹、そして首に、深い裂傷が残っている。
 対して、丘の体には左腕の骨折のみ。
 
 「僕にとっては、人体は急所の塊です。」
 
 何年も前に人体の内部構造の虜になり、実際に数十の肉体を腑分けした。
 どこに何があり、どう繋がって動いているのか。
 丘にとっては、それを知ることが喜びでありそれを見ることが悦び。
 故に、『分からない』ことは許せない。
 世の誰より人体を愛しているというプライドに賭けて。
 それが人の形をしている限り、丘には急所が透けて見える。
 腱、太い血管、神経、強い痛みを齎す部位。全部知っている。
 
 だから。
 
 “奴”が防御に構えた手そのものを狙った。
 リボルバーガントレットの間接部にナイフを通し、指を切り落とす。
 そこからはもう、止まらない。
 精神を集中させた丘には、皮膚の中が透けて見えた。
 気丈にも更に打ち出された腕は手首を切り、
 血を抑えようと庇った左手も切り裂き、
 両腕から流れる血を抑える方法を模索している間に、腿に刃をつきたてた。
 血管から腱まで一気に引き裂く。
 膝が折れ前のめりになった肩、喉、顔をめった刺し。
 
 手足の末端から始まり、抵抗できなくなったところに呼吸器、消化管を破壊、痛みと失血と呼吸困難で人体の機能を不全にさせ、最後に脳を破壊する。
 
 人体の機能を物理的に停止させる術。
 それが、丘が見出した『暴き立てる悪夢』。
 
 「お見事、お見事♪」
 「研鑽に励みます。」
 
 能力者は、その卓越した能力から、無意識でさえも急所を交わすという特性がある。
 しかし、丘にはもっと細かな急所が見えている。
 心臓でなければ肺を。肺が駄目なら胃を。それも駄目なら腸を。胴が硬ければ脚を。脚が遠ければ腕を。
 
 全ての攻撃を分解し、あらゆる防御を解体する。
 ナイフの刃が通りさえすれば、大きな勝ち目を見出せる。それが、彼の『悪夢』。
 
 「……後始末の面倒さは課題ですかね?」
 「そこは……世界結界にお任せとは、行きませぬか?」
 
 微笑む『お屋形様』に、丘は苦い笑いを返した。
 
 以上。」
9月6日

全知全能

 「逆流するように激しく、ではなく、あふれ出るようにとぷとぷと。
 
 そんな吐露があります。
 
 ……こんばんは、鳩です……。
 
 化け物め。
 
 「おうっ!?」
 
 丘・敬次郎、本日五度目の転倒。
 師範、筧・次郎に出足を引っ掛けられた。
 
 「足元がお留守だと何度言ったら。」
 「もう一本。お願いします。」
 「あいあい♪」
 
 丘が起き上がり戦闘態勢を取ると、筧も掌を突き出して構える。
 数瞬の間。
 丘が右拳を突き出す。払いのけるまでも無く避ける筧。
 避けた方へ更なる攻撃。左拳にはいつの間にかナイフが握られている。
 
 泳いでいた体を建て直し、筧はこれも避けきる。更にそこに突きこまれる右。
 当たらない。触れない。丘の暗器交じりの左右の拳は、すり抜けるように宙を舞うばかり。
 
 手応えを求めて打ち出されていた拳は、やがて自然に緊張を帯びる。
 より強く、より気持ちよい手応えのために。
 当たれ、当たれ。当たって、気持ちよくなりたい!
 
 もっと長く遠くへ!
 と体を投げ出すように打った矢先、前足が軽く蹴り上げられた。
 
 あ。
 
 声を出す間もなく、崩れた体を掴まれ、丘は地面に叩きつけられた。爆水掌のおまけと共に。
 
 「っがあっ……!!」
 
 肺に詰まった空気と、裂傷した消化管からの血を押し出され、悶える。
 
 「だ、か、ら、足元がお留守だと言ってるでしょうが。」
 
 体を大きく曲げ、『上目遣いで』見下ろす筧の姿は、鳥越・九(いちじく)には異形の怪物にも見えた。
 
 
~~~~
 
 「如何でした、九(きゅう)。」
 「いちじく、です。」
 
 畳の間。
 布団の上に、丘は上半身に包帯を巻いた姿で寝ていた。
 横に座るのは、始終を見ていた鳥越。
 
 「いいじゃないですか、キューチャン。可愛らしい。」
 「衆でもそのように呼ばれ侮られているので、鳥越と呼んで頂きたく。」
 「分かりました鳥越。
  で、僕と『お師匠様』との組み手を見学して、何か学ぶところなど御座いましたでしょうか。」
 「速いのですね。『お師匠様』は。」
 「さすが情報収集の百々目鬼衆、よく『見て』いる♪」
 
 丘は笑い、胸を押さえ二、三度咳き込んだ。
 
 「ご覧の有様です。」
 「恐れながら、丘様の攻撃は、焦って軽く早くなっていたように思われます。」
 「ええ。そこに気づいて、『足にきちんと荷重をかけスピードを増して捉えなくては』、と。
  前に出たところを狙い撃ち。」
 「焦らなければ、応酬はもっと長引かせられたものかと。」
 「応酬ならね。」
 
 丘が俯き、上目遣いで鳥越を見上げる。
 
 「あの方には、僕の攻撃を捌く技術が確かにあります。
  カウンターも入れることが出来たでしょう。
  しかし今回は避けることに徹した。
  空振りが続くと人はどんな心理状態になるのか。」
 「……。」
 「焦りますね。
  うん、そこを突かれた。
  空回りというのは一番精神的に応える。
  受けやカウンターで迎えるならまだ、こなくそと気が逸るのですが、
  徹底して避けられると……無視されているような。
  非常に空しい気分になる。
  体を激しく動かしている最中に空しくなれば、ソレを誤魔化すには更に激しく強く動くしかない。
  で、その瞬間をきっちり収穫された。」
 「……勉強になります。」
 
 丘のため息に、鳥越は、せめての後輩らしい言葉を返す。
 
 「……。
  力量差あってこその技ですよね。
  互角な相手なら、そもそもあそこまでかわし切れない。反撃も綺麗に入るとは限らない。
  鳥越、覚えておきなさい。
  あの方の行動原理は、殺すことだ。
  価値の判断基準は、殺せるか殺せないか。
  だから、体を鍛えて、自分が殺せる相手の数を少しでも増やそうと努力している。
  殺せる相手を必ず間違いなく殺すための技術を磨き、
  そして、自分が殺せないと判断した相手とは、絶対に関わらない。
  武術師範ではありますが、『より上を目指す』という意味では、少し純粋ではない部分がある。」
 「……わたしは、『お屋形様』に直接指導頂いている身分なれば。」
 「そうでしたね。」
 
 『殺戮を極める一環としての膂力強化』ではなく、『膂力を極めた結果としての殺傷力強化』を旨とする『お屋形様』。
 パワープレイがお好みの『お屋形様』ならば、この子にはきっと、違う意味での挫折や絶望を与えてくれる事だろう。
 
 「では、罷ります。」
 「はい。ありがとう御座いました。」
 
 部屋を出て行く鳥越の大きな尻に、飛びついてむしゃぶりついたものの、
 トンファーの一撃で撃退される丘である。
 
 どっとはらい。
 
 以上。」
9月2日

theater

 「終身刑。死ぬまでが刑罰です。それって生活と何が違うの?
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 宿命の揺らぎ
 
――――「このままどっか消えちゃわない?」って
――――まだまだそんなつもりじゃない
――――一番だって褒められたって二番があってだそうじゃない
――――イライラしないで 最終兵器スマイル・ミサイルでOh, yeah
――――この一戦大勝すんです baby
 
 ――――SHY アルバム:THEATERより、『ラッキーカラー』――――
 
 「愛されるための努力ですって?!クズが!」
 
 崩れ落ち消えかけたリリスを丘・敬次郎が踏み潰す。
 サキュバスドール・明美はただ、それを冷ややかに見下ろす。
 
 「男にあるのは、『愛しているかいないか』ただそれだけだ。
  自分が好きな相手なら愛する、それ以上のことは知らないし無用。
  だからこそ相手にも、「ただ愛しているか否か」を求めるのに。」
 
 明美は無意識に舌打ちをした。
 
 「女は語る、男は単純だと。
  だが、女はそうであったとしても、自分も単純にはならない。なれない。
  単純な男を操ろうとする、少し複雑な生き物であろうとする。
  だから男は理解できない。だから空回りだという!
  俺達が求めているのはただ、『殴り合い』だというのに!」
 
 口調が独り言のときのそれに戻っていても、丘は気にも留めなかった。
 
 ただ愛し愛される。そうでなければ片思い。
 
 そんな単純な物語を何故理解できない。
 
 丘がペットボトルの水を煽るのを見て、明美はその背に抱きついた。」
 
 以上。丘はマッチョ主義です……。」
 
8月30日

 「『三千万円、いくらかかっても払いますとも!!』『バカじゃねえのお前ええぇーー!?』『え……?』『その言葉が聞きたかった。』
 
 こんばんは。母はその直後メスで刺殺。鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 将来の将
 
 「ほい。」
 「……『PEACE』。」
 「鳩と僕が何本か拝借してたんでね。
  無論、思い入れを持ってらっしゃるあの箱には及ばないでしょうが、
  一応、埋め合わせをさせてください、ということで。」
 「……お返しします。」
 「お、っと。
  何故?」
 「二十歳になって、自分で買いたいからです。
  『お師匠様』や『お屋形様』にスリ取られるのは仕方ありませんが、
  ……何ていうかな。自分で手に入れたい。」
 「ええ、それは、尊い執着ですよ♪」
 
――――
 
 里の、座敷のある居酒屋にて。
 「美化委員会の言いなりとかさあ、いい加減俺も腹が立つじゃん?」
 「分かりますよー。分かります。
  でも逆に言えば、あいつらも僕らの援助無しには動けないわけなんですから。」
 
 丘が年上の忍者に麦酒を注ぐ。
 
 「お前も飲め!」
 「ウーロンもう一丁お願いします!」
 「お前なあ!」
 「仕方ないんですよ、酒の味を知ったら能力者じゃなくなってしまうかもしれませんもの。」
 
 『生活安全部』部長代行とは言え、丘は若干16歳。
 年上の経験豊富な先輩に絡まれれば、無碍には出来ない。
 
 「こぉの、銀誓館の狗がぁ!」
 「それは言いっこなしですってばぁ。
  てか銀誓館関係なく飲酒はご法度ですから!」
 
 高い音を立てて置かれたグラスに、すかさず麦酒を注ぐ。
 やってきた焼き鳥盛り合わせの鳥肝タレ焼きに中年忍者は迷わず手を出す。
 
 「固いねえ、部長代行様!」
 「だーから言いっこなしですって小島さん!
  『お屋形様』の鶴の一声じゃどうにもならない。」
 「そう言ってお前、学業が忙しいからってずっと里の仕事パスしてるじゃねえかよ。」
 「んーーもぉ。
  『仕事が忙しいから学業しません』って言ったら退学じゃないですか僕!
  銀誓館放り出されたら能力者としては正直あれですよ?」
 「だーからさぁ、その銀誓館補正を何とかして欲しい訳。」
 
 何度と目とも知れないため息を、丘は吐く。
 
 「いーやーでーす。
  折角貰った力ですもん。」
 「ほんっと俺と代われよー。
  美化委員会のゴミ処理なんてやりたかないんだからさー。」
 「それは寧ろ率先して僕がやってるんですけどー。」
 「お前は死体好きだからいーだろ。」
 「あー、横暴だー、おーぼー。」
 
 
――――
 
 丘は、瑠璃最大の実行部隊『生活安全部』の統括を任されてはいるが、実体は中間管理職である。
 実力主義と年功序列が奇妙に混じった結果、丘は下忍のトップとして、中忍衆との交渉を行う立場に立たされている。
 
 名目上、命令一つ下せば中忍だろうが下忍だろうが丘に従う事になってはいるが、
 年下に命令されるのか、という不満は当然出てくる。
 現場では中忍にも容赦なく命令を下し、プライベートの場では、『自分も心苦しい』と可愛い後輩を演じてみせ、ガス抜きを施す。
 先述の通り、『学業優先』として逃げ回ってはいるものの、任務の場でのストレスは、丘の精神に粘りついて蝕む。
 
 
 だから。
 
 
 今宵も、少女が一人、いけにえに。
 
 「僕だけが見せられる悪夢を、あなたに……!」
 
 
 以上。」