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11月21日

殺し屋なんていない

 「自分が稼ぐ食い扶持には、葬式代だって含まれている。
 空しいってんじゃないぜ?生きるってのは、死んだちょっと後までのことを含むって言う事なんだ。死は生の反対側なんかじゃない。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン
 
 切り裂きK
 
――――あなたは僕に踏み込んでいい。
――――あなたは僕を殺していい。
――――あなたは僕を好きなようにしていい。
――――でも僕は、あなたの好きなようにはなれない。
 
 
 夜。
 白いドレスの少女が、アメジストの嵌った虫篭を持って立つ。
 アスファルトの上。
 黒いコートの少年が、ナイフを片手に持って向かう。
 
 セドレツィーナ・クルムロフと、丘・敬次郎。
 どちらが言ったでもない。血を浴びる生き方しかしらない二人にとっては、必然とすら呼べぬただの途中経過だ。
 
 少年が仕掛けた。
 黒いブーツで地を蹴りナイフを突き出す。
 少女は刃を虫篭の網目に絡め取り、篭から黒き群れを吐き出す。
 
 少年は手に絡みついたもやのようなモノをすぐに払ったが、既に無数の噛み痕が残り、火ぶくれを起こしている。
 視線は少女から外さないまま、手に意識を集中する。
 すると、少年の腕にも皮膚の下から黒い蟲の群れが沸き立ち、膿みかけた傷を癒した。
 少女はくすりと笑い、篭を掲げ自分にも蟲を纏わせる。
 
 またしても少年が先手。
 少女は虫篭で受けようとするが、刃の軌道はくるりと歪み、籠を持つ手が裂かれた。
 鮮血。
 少女は一切構う様子なく、篭を振るい血しぶきと共に蟲の群れを浴びせかける。少年の顔面へ。
 庇う手は間に合わず、蟲は彼の視界を黒く塞いだ。
 毒虫を満載した篭を振りかぶり、少女が踏み込む。
 
 「くっ!」
 「お?」
 
 苦悶の混じる少年の声と、困惑した少女の声。
 少年が顔を拭うと、解せぬと言った表情で、少女が身体をくの字に曲げていた。
 腹に蹴りを受けた少女は、どすんと尻餅をつく。
 痛む様子はない。だが、けほけほと咳き込む姿にはダメージが見て取れた。
 
 畳み掛ける。
 少年の左手に水が集まり収束する。
 右足を下げ半身に構え、掌を前へ。
 起き上がりかける少女の頭部に。
 
 だが、掌打は逸れた。
 
 「ぬおっ!?」
 
 少女は起き上がらず、ぐらつくままに身体を倒し、踏み出してきた少年の左足を横から蹴り飛ばしたのだ。
 バランスを崩した少年の顎に、体ごと伸び上がるような蹴りをもう一打。口から血を吐きながら少年が倒れる。
 
 少女の顔に余裕はない。
 この程度で倒せる相手ではないのは分かっている。立ち上がり、倒れている間にもう一撃。
 
 「?」
 
 足に力が入らない。
 腹に残る圧力とはまた違う、直接的な痺れ。
 みると、左足に赤く長い線が引かれていた。
 
 「大変ですねぇ?痛みを感じないってのは♪」
 
 悪い笑い声が聞こえる。
 少年の右手のナイフを見ると、血がねっとりと巻きついていた。
 
 蹴られながら切っていたのか。
 
 立てない脚など要らぬ。
 少女は残った脚で無理やり身体を振り、血塗れた左足を鞭のようにしならせた。
 爪先を、肝臓へ。突き立てろ。
 
 「ちぇりゃあ!」
 
 しかし。
 気合一閃、少年の蹴りがしなる脚を無残に折った。
 
 「あ。」
 「ふふ。」
 
 バランスが崩れ反射的に両足が戻るが、もはや役目を完全に放棄した脚は、体重をかけられ粘土のように曲がった。
 反対に、少年は両の足でしっかと地を踏みしめる。
 
 「ああ。」
 「ははは。」
 
 少女が振り出した虫篭は、手首を打って落す。
 拳で打たれたはずなのに、鋭い墳血。
 少年の手は、研ぎ澄まされた水の刃に覆われていた。
 
 倒れかける少女の襟元を、少年の手が掴む。
 笑う。
 もう片方の手に、水で出来た刃を宿して。
 
 
 「時よ止まれ。そなたは美しい♪」
 
 
 血飛沫が舞う。
 指を飛ばされ、肘を刺され、肩を外される。
 膝を切られ腿を破られ腹を割かれ。
 肝が。脾が。腸が。肺が。穴を空けられる。
 
 抵抗できない。しようがない。
 動くべき筋肉が切られた。
 動かすべき神経が切られた。
 生かすべき血管を切られた。
 
 何も出来ないまま殺されていく。
 まるで時が止まっているかのように。
 
 ついに、少女は倒れる。
 少年は覆いかぶさり、臓腑を覗くと舌なめずりをして笑った。
 
 「時よ止まれ。そなたは美しい♪」
 「お優しい方。」
 
 微かな声に少年が顔を向けると、少女は血に染まった顔でウインクをした。
 
 「……うっぐあああああ!!!」
 
 少年が目を押さえて呻く。
 黒い蟲使いの切り札、「呪いの魔眼」。
 強力な毒を含む視線を、両目に諸に浴びてしまった。
 
 「大変ですわね、痛みを感じるというのは♪」
 少女はそのまま両目を閉じる。失血に薄れる意識は、まるで死のように冷たく。
 
 “NoSuchMethodError : 詠唱銀によって発生するゴーストと戦い、怪異を取り除き、世界の常識を守る事こそ、現代の能力者達の使命なのです。 ”
 
 彼女の傷を赤い文字が血のように包み、身体を修復していく。『ありえぬものをありえぬように』。
 
 少年は、目から血を流しながら、ナイフを振るう。目を犯す呪毒はまるで燃え立つように激しく。
 
 “OutOfMemoryError : 全力で戦闘を行っている場合は、相手の隙ができた場所を攻撃するのが普通ですので、特定の部位を狙って攻撃する事はできません。”
 “InternalError : 特定の部位を狙って攻撃した場合は、攻撃の命中率が大きく下がってしまいます。また、必ずしも狙った場所に命中する訳ではありません。 ”
 
 火のように赤く踊る文字がナイフの血を拭っていく。『ありえぬものをありえぬように』。
 
 
 セドレツィーナ・クルムロフと、丘・敬次郎。
 どちらが言ったでもない。血を浴びる生き方しかしらない二人にとっては、これは、
 必然とすら呼べぬただの途中経過だ。
 
 
 以上。」
11月18日

メモを最新にする。

 msnのブログは日時の調整や記事の並び順の変更などができないので、再投稿。
 「あれだ、アメコミなんかの宇宙意思レベルの相手を見ると、主(あるじ)や鳩自身もその手の神様レベルに設定しないと、と思って色々空想します。
 
 きわまった最強厨、鳩です、こんばんは……。
 
 今回はメモだけ。
 
 ・Doomの音声というかゲーム中のセリフを探す(丘のため)。DukeやBLOODは結構しゃべってくれたんだけどな。
 ・Doomの音声は諦める。GUAAAAA!の断末魔ぐらいしかないよ。<new!
 ・Call of Dutyも同様に。Standby. Standby... Go! かな。
 ・ピンのタイトルにする妄想をする為です。
 ・「Good hunting,stalker.」以上のセリフが今のところ見つかってない
 ・ただそれにすると、丘はnightmareではなくMasterにしないといけないんだよな。めんどくさい。
 ・ああそうだ、「CyberDemon」があった。
 ・あの白い帯を鞭と言い張る元気な女の子が出てくるゲームは『エナジーブレイカー』。
 ・でもあなたがみたい、帯をくるんと回しながら立つヒロインの絵はネットに落ちてない。
 ・タイトルは、『敵に回してはいけない奴ら。』 ダディがチェルノブイリに……のスレが元。
 ・SSのネタとしては、「スーパーマンになりたかった」
 ・探してたあのアニメは、多分『スペース・オズの冒険』。
 ・丘絵:『親父譲りの作業工程(ルーチン・ワーク)』
 ・鳥越絵:『母親譲りの力業(パワー・プレイ)』
 ・正直馬鹿にしてたけど、禁書目録の影響、っていうかアニメ化の影響ってすごいな。かっこいいと思ってしまえる。
 ・数年前立ち読みした時は前評判もあって、かなり辟易してたのに。
 ・今も辟易してますけど。
 ・九はハードコアで、丘はJ-POP。J-POPというかハイ・エナジー好きなんだけど、もっといいジャンルないかなあ。
 ・いいや、ハイ・エナジーで。
 ・誰もが笑える未来というものを想定した時、そこにいない奴。それが、バケモノです。
 ・自由に生き、公共の福祉に殺される。
 ・彼『ら』が誇りに思うただ一つの事は、『公共の福祉』を美しいと思えることです。
 ・死ぬ間際の、意識のみがあって動くことが出来ない人間の意識を覗くことは、例えパティ・ガントレットであっても出来れば勘弁願いたい体験である。
 ・次郎は槍、鳩は盾、丘は刀。<new!

THE OBSCENITY SLAYER ~Rifle-Hold Neighbor~ Hey, Call and Responce.

 「うるさい、黙らせてやる。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 呼ばば応えよ
 
 黒い背広を纏い、灰色の巨大なツーテールが揺れる。
 彼は背の低い少年で、髪と服のそこかしこには、血の雫が散っていた。
 廊下の先にノートパソコンを持った影を見つけ、歩みを止める。
 
 『おかえり』
 
 彼が歩み寄ると、サキュバス・ドールがノートパソコンに文字を打ち、差し出す。
 学生寮内、丘・敬次郎の部屋の前。
 
 「只今帰りました。待ってくれていたんですか?」
 
 サキュバス・ドールはこくりと頷いて笑う。
 丘がイグニッションカードを取り出し念じると、
 背広とツーテールは消え去り、私服姿の少年が残った。
 
 「珍しい事もあるもんですね♪」
 
 集合住宅特有の重い扉を開け、二人部屋に入る。
 
 「暖房もつけていない?」
 『寒がりたかったのだもの』
 
 広くない部屋とは言えパソコンと少女一人の体温だけで温めるには、空虚に過ぎて。
 
 「何故?」
 『温まりたかったから』
 
 ああ、だから、わざわざ外で待っていたのか。
 服を洗濯籠に放り込みつつ、丘は得心する。
 ベッドの上には分厚いタオルケットが3枚も敷かれ、掛け布団は下に畳まれていた。
 
 『もうすぐ わたしを強くできるのでしょう?』
 
 苦笑しながら丘が頷く。
 サキュバスは使役ゴースト。使役する側の能力者以上には強くなれない。
 いや、その表現は正しくない。
 『自分より強い相手にしか使役されない』。
 ただ強くありたいだけなら、丘よりも強い能力者に多少の手続きをしてもらえばいいだけだ。
 
 それが嫌だから、彼女は『使役する側の能力者以上には強くなれない』。
 
 丘はもうすぐ、真・サキュバス・ドールを従えられるようになる。
 それは現在確認されているサキュバスの中で、最強の存在。
 
 何故強くなりたいのか、と丘は訊かない。
 分かりきっている、強くなければ従える意味が無いから。
 
 サキュバスを初めとする使役ゴーストには、じわじわと、では無く飛び級式に強くなるという特徴がある。
 『自分より強い相手にしか使役されない』という性質と合わせ、使役ゴーストと能力者には必然的に実力の隔絶が発生する。
 その格差が最も小さくなるのが、『使役ゴーストの成長段階より、能力者が一歩だけ強くなった瞬間』なのだ。
 
 彼女は、今は丘の使役ゴーストではない。実力の隔絶を嫌った丘に契約を切られている。
 ただ彼女の趣味で丘と一緒に生活しているだけの状態であり、イグニッションカードにも納められない。
 銀誓館学園を縛る偉大なる黄金律により、共に戦場に立つ事も出来ない。
 
 全部、彼女の趣味だ。
 
 「お風呂入りますか?」
 『要らない』
 
 ディスプレイを見せるが早いか、彼女はパソコンをテーブルに置いて丘に抱きついた。
 押し倒すつもりだったが、少女の姿の軽い体重では丘の体を揺らすのが精一杯。
 反対に、ベッドへと抱き倒された。
 
 破れそうなほどに互いの衣服を剥ぎ取り、冷たい身体に沈み合う。
 
 (血の匂いがしない)
 
 淫魔の唇が残念そうに動くと、清浄なる詠唱兵器のご加護です、と丘が応える。
 
 (呼んで)
 「明美ちゃん。」
 (ちがう)
 「明美。」
 (ケイジロウ)
 「明美。」
 
 愛していない。愛しちゃいない。
 明美は所詮、血の匂いに溺れて生きたゴーストであり、
 丘は詰まる所、臓腑の色を見るためだけに生きている能力者。
 愛ではない。愛であるはずが無い。
 こんなものが愛であって溜まるか。
 
 視線を交わすのも惜しんで、唇を貪り合う。
 冷たく熱い肌が擦れ合い、ねろねろと体中が汗にぬめる。
 
 こんなものが愛であって溜まるか。
 人間はもっと、綺麗で素敵で慈しみに満ちて。
 殺戮を正しく憎み、虚偽を正しく嫌う。
 愛は彼らのようなまともで眩しい奴らのもので。
 こんなものは愛であるはずがないのだ。
 
 ああ、愛しい人間よ、僕らはほら、こんなに汚れた生き物だから。
 ああ、愛しい人間よ、だから僕らは君らが大好きなのさ。
 
 君等はもっと、綺麗で素敵で慈しみに満ちて。
 殺戮を正しく憎み、虚偽を正しく嫌え。
 
 こんな僕らだから、僕らは一緒にいるのさ。
 こんなものが愛であって溜まるか。
 
 わたしが人間だった頃に愛したあなた。
 僕が殺人者を止めたくなるぐらい愛しい君。
 
 どうかあなた方は高潔な人間で居て。
 ここで僕らは、あなた方が嫌い憎む汚泥になるから。心臓が溶け合うぐらい同じ祈りに汚れるから。
 
 人間の光で、ワタシタチヲ マサシク タダシク コロして
 

 以上。」

 
11月13日

月の裏側には魔王が棲んでいて、いつも地上を見つめている。いつか絶望と阿鼻の果てに滅亡させてやると嫉妬と憎悪をたぎらせて。

 「昼寝?別にいいよ?どうぞ?歯軋り?いびき?気にしないで。起きてるよりましだから。
 
 こんばんは。鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 月
 
 ゴーストタウンからの帰り道。
 冬の始まりの澄んだ空気に、丸い月が浮かんでいた。
 
 丘・敬次郎は不意に立ち止まり、一緒に歩いていた少女に手で『待って』とジェスチュアする。
 イヤホンを外し、携帯電話を取り出した。
 ボタンを押して、コール音三つ。
 
 『はい、瑠璃興業でございます。』
 「お屋形様、丘です。」
 『あら、こんな夜分に何の御用で?』
 
 受話口の声が、外向けのものから内輪向けの地声に変わる。
 
 「仕事無いかな、と思いまして。」
 『幾らでもございますよ?』
 「回してもらえますか?」
 『暫く学校生活を送れなくなりますがよろしいですか?』
 「……やっぱりいいです。」
 『あなたにやってもらいたいこと、できることをこちらは回しているつもりです。
  意欲は買いますが、営業担当をそれなりに信頼するように。』
 「は。」
 『本題は。』
 「いや、ホントに仕事が欲しかっただけなんですが。」
 『金ですか?』
 「まあ、そうですね。」
 『事故でも起こしましたか。』
 「そういうのでは無いのですが。」
 『女ですか。』
 「んー、まあそうですね。」
 『どんな仕事をご所望で。』
 「身体を動かせる奴がいいです。」
 『鈍ってらっしゃる。』
 「動いてないとちょっとね、不安になっちゃって。」
 『じゃあそのまま不安になっていなさい。わたくしは必要な時に必要な命令を下します。
  あなたの精神安定の為に仕事を回すつもりはございません。』
 
 そう言って『お屋形様』は通話を切った。
 
 「……。」
 「終わりました?」
 「ええ。」
 
 少女――――セドレツィーナ・クルムロフの言葉に、丘はうつろな言葉を返す。
 
 見透かされていた。
 義務に追い立てられたいとバレていた。
 
 「どうされたのですか?」
 「は?」
 
 セドレツィーナの声に顔を向け、初めて自分が下を向いていると気づいた。
 
 「まるでリビングデッドのような顔をしておりましたが。」
 「夜風に当てられましたかねー。」
 「最近は冷えますものね。」
 
 お互い前を向く。
 左右に家が並ぶ団地の道。
 上手く立ち回れば、警邏中の官憲もすぐに撒ける定番コース。
 能力者である二人が一般人から危害を受けることなどあるはずが無いのだが、警官に言っても分かりはしまい。
 
 「話してくれなくても結構ですが。」
 「はい?」
 
 丘が再び顔を向ける。セドレツィーナの顔はまっすぐ前を向いたままだった。
 
 「わたくしは望叶(みかのう)・タマエではありませんし?」
 「ふん♪」
 
 片思いの相手の名を出され、丘は鼻で笑った。
 
 「ただ、あなたを深く知る人間の一人だという自覚はそれなりにあったんですけどね。」
 「そうですね。あなたはとても理解してくれている。」
 「……。」
 「……。」
 
 カツカツと、アスファルトを踏む音が夜空高く通る。
 こんどは丘から口を開いた。
 
 「次の趣向は囲炉裏を囲んでという事ですけど、何かリクエストはあります?」
 「肉を持ってきても?」
 
 丘が運営するサイト、『瑠璃色の丘ウェブログ』のオフ会企画。
 次回第二回は、ゴーストタウンの民家を借りての談話ということになっている。
 丘が招待した能力者たちが集まり、オフレコな話を秘密でするという内容だ。
 
 「ええ、どんな肉でもいいですよ、食べられれば♪」
 「それはよかった♪楽しみにしていますわ。」
 「こちらこそ。」
 
 「ではわたくしはこちらですので。」
 
 セドレツィーナが四辻を左に曲がる。
 
 「はい。お疲れ様でした。」
 「キューちゃんによろしく♪」
 「伝えておきます。」
 「それと、オフでは話してくださいね。さっきの電話の内容。」
 「仕事の事ですからねぇ、口外はできませんよ。」
 「わたくし、期待してますから♪」
 
 では、と頭を下げて、彼女は闇の中に紛れて行った。
 
 その小さな背中を見送らず、丘は前を向く。
 
 「女は強いな。」
 
 見透かされていた。
 まあ当然か。思い立ったように「仕事が欲しい」だなんて、不自然以外の何者でもない。
 
 外したイヤホンを耳に戻し、月を見上げる。
 里で死体を埋めに行ったときにも、こんな月夜の時があったっけ。
 
 ゴーストタウンに行くのは仕事じゃない。
 運命予報を聞いて出動するのは仕事じゃない。
 学業に励むのは仕事じゃない。
 体を鍛えるのは仕事じゃない。
 
 男のがなるような歌声が、脳を揺さぶる。
 丘は走り出した。
 ゆるいコートが鬱陶しく揺れる。
 
 全ての能力者に不幸を。
 悉くのゴーストに死を。
 あらゆるヒトに幸せを。
 
 それを。その使命を俺にくれ。俺にさせてくれ。死ぬ度胸はない、生きていたいんだ、
 俺を生かしてくれ。生きていさせてくれ。
 
 月は煌々と輝き、小さき者を嗤っていた。
 
 
 以上。
 
 参考:THE BACKHORNで、『赤眼の路上』」
 
11月11日

むにゃむにゃのむにゃむにゃ

 「むにゃむにゃでむにゃむにゃむにゃ。むにゃむにゃむにゃ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 ネタ切れなんていつもの事です……。ネタ切れとの付き合い方を覚えてからが本番……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 ハイ・エナジー & ハードコア
 
 左右の二人のイヤホンから漏れるシャカシャカ音に、セドレツィーナ・クルムロフは眉を顰めていた。
 この腐った村中で、右の少年は歌を口ずさみながら嬉しそうに笑い。左の少女は無表情ながらも細かく頭を振ってノッていた。
 
 旧宙見村集落。
 
 古くからの因習と残留思念が結びつき、ゴーストタウンと化した廃村だ。
 腐臭や獣臭を漂わせたゴーストたちがささやかな住処を守ろうと抵抗してくる。
 
 ここに来ようと言ったのは、少年の提案。
 人が近寄る事の出来ない場所だからこそ出来る会話がある、として。
 
 今行っているのはそのための『掃除』。
 
 決して楽しくも面白くもない仕事だというのに。
 
 「あわせますよ、キューちゃん。」
 「そう呼ばないでほしいと何度も何度も。」
 
 少年は、セドレツィーナの隣に居たもう一人の少女に声をかけ、駆け出す。
 
 「♪~」
 
 少年――――丘・敬次郎は、軍服姿のリビングデッドの懐にするりともぐりこみ。
 
 「ふっ!」
 
 少女―-――鳥越・九(いちじく)は白い少女の姿をしたリリスにトンファーを向け。
 
 丘のナイフがリビングデッドをリズミカルに刻み、鳥越のトンファーがリリスの肉体を真っ二つに砕いた。
 
 「いえー♪」
 「ふむ。」
 
 二人とも、気分は上々と言ったところ。
 
 「さすが同じ里の出身、似たもの同士ですわね♪」
 「ええ♪最近とみにそう思います。」
 「それはとても激しい侮辱です。」
 
 セドレツィーナの皮肉交じりの言葉に、二人は真反対の顔を向けた。
 
 以上。」
 
 
 以上。」
11月7日

正義欠乏症候群

 「お前は乳輪のブツブツ一個にも劣る野郎!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 過剰厭世症候群
 
 「始末をお願いします。」
 「はっ。」
 
 イグニッションを解き汚れた服を投げ捨てると、丘・敬次郎はその場を後にした。
 
 「どうだ、これが事実で真実だよ。畜生め!」
 
――――
 
 「いぃやぁあっ!!」
 
 トンファーの付け根に誂えられた槌を叩きつけると、リビングデッドは引きちぎれ肉塊と化した。
 
 「お見事鳥越ちゃん!」
 「ありがとうございます……。」
 
 鳥越・九(いちじく)はゴーストタウンを仲間と探索している。
 連れる仲間は自分より力のあるものが常。
 詠唱兵器を集める効率の為と自分に言い聞かせはするが。
 
 「まだ、もっと強くならなくては……!」
 
――――
 
 鎖骨に舌を這わせると、女はびくりと総身を震わせた。
 男がくすりと笑う。体重をかけないようにゆっくりと身体を動かし、舌で首筋をなぞる。
 
 甘く一噛み。
 
 「あっ、痛……あ、あああああああっ!!!」
 
 蕩けた喘ぎは悲鳴に変わり、そしてぷっつりと途絶えた。
 筧・次郎は食いちぎった動脈を吐き出すと、いたずらっぽく笑った。
 
 「犬に食われたと思って、諦めてください♪」
 
――――
 
 灰色のツーテールが揺れるその背後には、ゴーストタウンの残骸が煙を上げていた
 黒服がセダンの後部座席に『彼女』を案内し、自分も運転席に滑り込む。
 
 「本日も精強で何よりです。」
 「いえいえ。」
 
 バックミラーに映る首領は、武器を取り出し手入れを始めている。
 上忍としてお傍についている自分ですら、首領のナイフ一本に敵わない。
 
 『彼女』――筧・小鳩――が漏らした言葉が、彼の溜息を押し込んだ。
 
 「日本列島ぐらいはさくっと壊せるようになりませんと……。」
 
 
 
――――――――
 
 「お前もいつか知るだろう、じゃないんです。
  お前は知らないまま死んじまうんだろうな、なんです。
  世の中にはいい事も悪い事もある、それはご存知の通り。でもね。
  誰も知らなかった悪い事を知ってしまうと戻れないんです。
  それはアフリカの子供が飢えてるだとか、政治家の癒着や裏金だとか、そんなちゃちなもんじゃない。
  わかります?
  この僕が、死体をバラバラにぶっ壊してなんとも思わないこの僕ですら吐き気を覚えるような、
  想像の外にいるおぞましい悪党がこの世には居るんです。
  少年少女を食う、事件を事故に変える、報道を握りつぶす、国を憎悪することに血道を上げる。
  僕らはそんな魑魅魍魎どもへの入り口だ。
  僕らを正しく憎み打ち倒してください。
  糾弾する資格の無い僕らの代わりに、この先へ進んでください。
  あなたにはそれができると、信じたまま死なせてください。
 
  さあ、
 
  「「「いらっしゃい。」」」」
 
 なんだこれ。」

これは恋なんかじゃない。ただの憧れで嫉妬で尊敬だ。でも、添い遂げるに足る。

 「お前の自由を奪ってもいい。それが自由というものだ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……
 
 
 喜びと共に歩みたくて
 
――――ならば教えてやろう、僕等がお屋形様から与えられた至上命令を。
――――「人が紀元前から作り上げてきた科学と文明が、銀の雨と怪異によって支えられていたことが完全に確実に判明した暁には、
――――我等は、この世界そのものを否定し、『この宇宙』における地球を、いかなる手段を以ってしても破壊する。
――――そして、科学による文化文明が確かに歴史を築いたと信じられる次元に、転生する。」
――――諸共に消し去ってくれる!
――――貴様も、偽りの文明も、ヒトではなかったヒトも!この『ふざけた宇宙の』地球と共に!
――――砕けろ、この隕石で!
 
 「生まれながらの才覚というものは当然ありますけどね。」
 
 丘・敬次郎が手を止め、こちらを向いた。
 テーブルの上には分解されかかったオートマチック拳銃。
 
 「やはり、何だ。」
 
 次の言葉を探すように、丘はまたテーブルの上に手を伸ばす。
 ドライバーでネジを外すと、片目でパーツを眺めて歪みを探す。
 
 「積み重ねていない人間を、信頼したくはありません。」
 
 また銃の解体を始める。
 がしゃり、とパーツをテーブルの上に置き、彼は向き直った。
 
 「というか、あれですね。
  我慢がならないというか。自分と同じぐらいの苦労をしていない人間が自分と同じレベルの技術を持っているなんて、認めない。
  あはあ、まんま僕が憎む悪しき体育会系の思考回路ですねえ♪
  同属嫌悪とはよく言ったものだ。」
 
 完全に解体し終わったパーツを拾い、ブラシをかけ始める。
 
 「あー、同属嫌悪じゃないな。
  同属だから憎むんだ。
  自分が嫌っている物事が、実は自分自身だったと思った時に憎しみが生まれる。
  お屋形様の言う憎悪の論理とはまた違いますけど。」
 
 銃のパーツに油を差しながら、彼は笑った。
 
 「お屋形様の言う憎悪は、理屈なんです。
  あー、何だったかな。
  そうそう、人間には生まれた時から、理屈が通ると快感を得られる回路があるんですって。
  で、あれだ。不幸が起きた時も、自動的にそれを理屈で納得しようとするんですって。
  納得しさえすれば、すっきりするはずだから。納得できれば、不快感は消えるはずだから。
  例えば肉親が殺された時、その原因である仇を倒したいと思うのは、怒りじゃなくて、
  『不快感の原因を消し去ればすっきりできる』っていう本能的な反応なんだと。
  でも、本当はそんな訳ない。
  大事なのは、肉親が踏みにじられたという事実に対する悲しみなんであって、
  仇をどうしようが悲しみが軽減される訳がないんです。
  でも、人間は『仇を倒せば解決する』と思って『しまう』。そう思うことを止められない。
  理屈で納得することを知ってしまった人間特有の本能なんだそうです。」
 
 余った油を軽くふき取り、銃を組み立てていく。
 
 「……走るように生きてた頃、何も見えなかった。」
 
 え、という声に丘は口の端だけを上げて笑った。
 
 「いつも、いつも、笑いながら、ずっと……泣きたかった。」
 
 グリップを組み上げ、握りを確かめる。
 
 「ふふ♪」
 
 戸惑う相手をよそに、丘は銃を組みきった。
 照門から照星を覗き歪みが無いか確かめる。
 銃倉に弾薬を込めグリップに押し込む。
 グリップを握り。銃口を向け、引き金を引いた。
 
 「あ……。」
 「ふふ。」
 
 衝撃で転んだ鳥越・九(いちじく)は咄嗟に眉間を押さえる。
 肌が直径9mmに凹んだのを指の感触で知る。
 
 「ままならないものですよね。」
 「……。」
 
 ダメージによる緊急イグニッションで大事には至らなかったが、貫通しない分能力者には衝撃が全て伝わる。
 銃弾に跳ね上げられて痛む首を押さえながら、鳥越が丘を見つめる。
 そんな鳥越に丘はフルオートの射撃を見舞った。
 衝撃に押され鳥越の身体が為すすべなく倒れる。
 
 「本当に、ままならない♪」
 
 胸と腹に受けた痛みを手で押さえつつ、鳥越の目が彼を見上げる。
 丘が笑っているのは後ろ姿からでもわかった。
 この『ふざけた宇宙』に愛したいものを見つけてしまった。
 ジレンマに陥りけれど笑える丘。
 
 恋に溺れるでもなく使命のために見放すでもない丘の心情を、歳若い鳥越には測れずにいた。
 
 
 以上。」